Mars space exploration 010

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「火星に住む」という映画のような世界が近付きつつある。米航空宇宙局(NASA)や民間企業は火星の有人探査を計画し、今世紀中にも人類が移住できる星にしようと本格的に取り組む。2月19日には米探査車が火星に到着。京都大でも、火星での生存に必要な環境を検討する実習が行われている。解決すべき課題は山積だが、“第二の地球”として期待される火星では、どんな生活が待っているのか。

 

米アリゾナ州の閉鎖環境施設「バイオスフィア2」内で行われた共同演習の様子(京都大提供)

 

米アリゾナ州の砂漠にそびえるガラス張り施設「バイオスフィア2」。甲子園球場のグラウンド部分に匹敵する1.27ヘクタールの敷地には、熱帯雨林やサバンナ、海などの地球環境を人工的に再現したエリアが広がる。「地球のエッセンスを詰め込んだ『ミニ地球』のような場所だ」と京大の山敷庸亮(やましき・ようすけ)教授は説明する。

 

この施設を活用し、京大とアリゾナ大は令和元年から、火星移住を想定した共同実習を始めた。日米の学生が閉鎖環境内で樹木の光合成の効率や人工海の水質調査を実施。同様の施設を火星に設置して生活する際の環境を検討し、植林して森林のみを再現した施設の設計が最適だとした。

 

コロナ禍のため、今年度は学生がそれぞれ国内で実習した後にオンラインで情報共有する。指導する山敷教授は「火星への有人探査で参考にできる知見を得たい」と期待を込める。

 

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世界では、火星探査に向けた動きも本格化。昨年7月にはアラブ首長国連邦(UAE)の「ホープ」▽中国の「天問1号」▽NASAの「パーシビアランス」-の探査機3機が相次いで打ち上げられた。火星が約2年2カ月ごとに地球に接近するタイミングで飛行距離が6千万キロと短くなる好機を迎えたからだ。今月、3機はいずれも半年程度かけて到着した。

 

火星移住を実現しようと計画を進め、探査機派遣の実績があるNASAが送り込んだのは、最新の探査車。水が流れていたと思われる地域で、岩石や堆積物の中から生命の痕跡を探す任務が与えられている。

 

米民間宇宙企業「スペースX」を率いる実業家のイーロン・マスク氏も、2050年にも100万人規模を火星に送り込む壮大な「移住計画」を発表した。

 

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国内でも火星移住に向けた議論が進む。

 

鹿島建設関西支店の建築士で京大非常勤講師も務める大野琢也さん(53)は、火星でも地球の重力が感じられる「人工重力施設」の建設を構想。「マーズグラス」と呼ばれる巨大なワイングラス状の施設は、回転することで生じる遠心力を利用して重力を再現し、内部に住居スペースや公園、川などを整える。

 

一般社団法人「スペースフードスフィア」(東京)は、食糧問題の解決策を示す。構想する超高効率の植物工場ではレタスやトマト、イネなどの野菜や穀類を生産。宇宙での栽培でも収穫量が確保できるよう品種改良する予定で、10~20年後の実現を目指す。

 

「食糧問題の解決なくして、持続的な宇宙進出は実現できない。将来の宇宙開発に貢献したい」と代表理事の小正瑞季(こまさ・みずき)さん(38)は意欲を見せている。

 

 

過酷な環境 閉鎖施設の設置必要

 

地球から5500万~4億キロ離れた火星。直径は地球の半分程度だが、1日の長さは24時間40分で、地形からはかつて大量の水が地表を流れていたと推測される。地球との類似性から、科学者間では生命が生存できる可能性に期待が寄せられている。

 

NASAが1964年に打ち上げた探査機が初めて火星の表面を撮影して以来の研究で、過酷な環境であることも分かってきた。

 

平均気温は氷点下60度だが、日中は15度前後となることも。大気は地球の100分の1程度で、二酸化炭素が95%を占める。液体の水が存在できないため、宇宙服なしでは生存できない。さらに、重力も地球の3分の1程度で、筋力低下など健康面への懸念も拭えない。

 

現状では、火星で人類が安全に暮らすためには、生活に適した環境が作れる閉鎖施設の設置が必須だ。

 

筆者:桑村大(産経新聞)

 

 

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