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日系3世で米ハワイ州知事のデービッド・イゲ氏が産経新聞の単独インタビューに応じた。凶弾に倒れた安倍晋三元首相について「真の友人を失った」と突然の死を悼み、他者への思いやりや寛容の精神を意味する「アロハスピリットを持った人だ」と語った。日米開戦の地となったハワイ・真珠湾の追悼施設を日本の現職首相として初めて訪問し慰霊するなど、日米関係の強化に心を砕いた安倍氏の外交手腕も改めて評価した。
「真の友人失った」
イゲ氏は10月、日米の交流強化を目指す非営利団体「米日カウンシル」の総会出席などのため来日し、都内で取材に答えた。安倍氏が7月の参院選の応援演説中、凶弾に倒れたとの報道に触れた際は「ひどく打ちのめされた。ハワイの真の友人だったから」と振り返った。
旧日本軍による真珠湾攻撃から75年を迎えた節目となる平成28年12月、安倍氏はオバマ元米大統領とともに、真珠湾攻撃の犠牲者の追悼施設「アリゾナ記念館」を訪問し、祈りを捧げた。迎え入れたイゲ氏は「人生の中でも忘れられない出来事になった」という。
イゲ氏の父は真珠湾攻撃によって米国への忠誠心を示すため、欧州戦線で死闘を繰り広げたことで有名な米軍の日系人部隊「第442連隊」に所属し、最前線に赴いた一人。父は戦後、日系米国人への差別的な扱いが繰り返されないよう、民族や出自に関係なく誰もが平等な機会を得られる社会の構築に心血を注いだ。
先代たちが努力を重ねてきただけに、イゲ氏にとって日米首脳の「アリゾナ記念館」訪問は感慨深い出来事だった。
パイナップル談義で盛り上がる
「父を含む日系2世たちの苦労や偉大さを知る私としては、両国の真の和解が証明された訪問に、誇りを感じずにはいられなかった」
イゲ氏はハワイ滞在中の安倍氏の細やかな心配りも目にした。現地の日系人が集まった大規模な夕食会に参加した安倍氏は、各テーブルを回り、参加者一人一人に声をかけ、触れ合おうと努める姿があったといい、「アロハスピリットを持った人だった」。
イゲ氏個人としては「パイナップル談義」で盛り上がったという。
安倍氏が「幼少期から中心部分に穴のあいたパイナップルしか食べてこなかったため、親族からパイナップルがそのまま届いた際、食べ方に困った」と苦笑交じりに打ち明けると、イゲ氏は最初に就いた仕事がパイナップルの缶詰工場で、工場での穴あけ工程を紹介してみせた。
「安倍氏はオバマ元米大統領だけでなく、個性の違うトランプ元米大統領とも親交を深め、日米関係をより強固なものにした有能な政治家だった」
イゲ氏は、長期化するロシアによるウクライナ侵攻の影響で、日本やハワイを含む太平洋地域の安全保障も脅かされつつある現状を念頭に、「日米関係強化の必要性を痛感している」との認識を示した。
「あらゆる国際的な危機に対しても、対処する能力を兼ね備えていたから」。イゲ氏はこう語り、安倍氏の非業の死を悼んだ。
筆者:植木裕香子(産経新聞)