台湾の蔡英文総統の2期目の就任式があった5月20日、米国が台湾に魚雷18発を売却した。MK48大型誘導魚雷だ。台湾が建造計画中の潛水艦に搭載され、駆逐艦なら一発で仕留められる強力なものだ。しかし、これで対中防衛力は一段と強化されるかといえば、必ずしもそうではない。実は、台湾の軍事機密は中国共産党(中共)に筒抜けと見られている。そのため、台湾への最新型武器の提供に米国は今も慎重なのだ。
親中分子を抱え込む台湾と日本
日本と台湾は「運命共同体」と言われるが、中共の浸透に弱いという共通点もある。
我が国の親中分子は二つの流れから成る。第一は、F・D・ルーズベルト米大統領が戦後世界を米ソ英中 (中華民国) の「4人の警察官」(拒否権を持つ国連安保理常任理事国) により処理しようと考えた構想の流れ。第二は、朝鮮戦争勃発後に毛沢東が日本に送り込んだ対日工作員の流れである。我が国側にも、対米敗戦後に米国とは別の提携先を確保しておきたいという親中路線があって、工作員の受け皿になった経緯がある。
台湾の親大陸勢力も二つの系列がある。一つは、蒋介石が中国から連れ込んだ「外省人」 (支配層と軍人)の系列。二つ目は、蒋経国の「大陸親戚訪問解禁」政策実施以降の中共分子流入の系列である。蒋経国が晩年に中国大陸の親族訪問を認めて以来、黄埔軍校(孫文が設立した陸軍士官学校)の同窓会と称して台湾の退役高級軍人がしばしば大陸を訪問し、中国人民解放軍の現役・退役將軍らと交流し、中共総書記の講話を聴き、中国国歌を斉唱している。
ラファイエット事件の闇
二つの大陸系「反台湾勢力」の浸透が恐るべき効果を発揮していることの一端は「ラファイエット事件」から窺うかがえる。事件は、台湾が1995年にフランスの軍需会社からラファイエット級フリゲート艦6隻を購入した際に起きた。同じく6隻を購入したシンガポールが払った代金は12.5億ドルだったのに、台湾は倍額の26.5億ドルを払った。その上、搭載する武器一切を中共に渡し、受け取った脱ぬけ殻の艦艇の裝備のため、別に20億ドルの武器購入予算を組んだという馬鹿馬鹿しい事件だ。フランスも中共に黙認料として設計図一式56箱を贈呈した。
台湾の購入額が倍増したのは、リベートを生み出すため。中共はフランスから手に入れた設計図を利用して同じ艦を造って今も運用中。つまり、台湾の主要武器の性能は中共に筒抜けなのだ。
この事件でフランス人を含む関係者10人以上が不審死を遂げている。事件を解明した在米の台湾人アンディ・チャンによると、台湾海軍は大陸の秘密結社「青幇」(チンパン)の勢力圏で、不審死の死体処理法も青幇流だという。不審死事件は迷宮入りし、処罰者は1人も出ていない。
中共の浸透工作を防ぐことは甚だ難しい。しかし、それは全世界にとって重要な課題だ。台湾はもとより、日本も国家の命運をかけて、機密情報の流出を許さない体制を築かねばならない。
筆者:伊原吉之助(帝塚山大学名誉教授)
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国家基本問題研究所(JINF)「今週の直言」第684回・特別版(2020年5月28日)を転載しています。