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日本文化の人気を牽引(けんいん)する漫画家やイラストレーターは、江戸時代の浮世絵師になぞらえ〝絵師(えし)〟とも呼ばれる。その現代の絵師たちの作品を集めた「絵師100人展 12」(産経新聞社主催)が4月29日、東京都千代田区のアキバ・スクエアで開幕した。12回目となる今回のテーマは「道」。新型コロナウイルス禍収束の道筋がまだおぼろげなこの春、104人の絵師たちが作品に込めた思いとは。
ポップの裏の羨望
緑髪の少女が、文字通りの「道」をかじっている。ポップでかわいいものに囲まれ、口元には笑みが浮かぶ。ただし、その目は涙でにじんでいて―。
初参加の宇佐崎しろさんが手掛けたのは「Envy green」。「evergreen」(常緑樹)をもじり、羨望を意味する「envy」をタイトルに入れた。キラキラした若者はまぶしく見えるが、当の若者だって内心では他人への鬱屈した思いを抱える。
「道」というテーマからことわざの「隣の芝生は青い」をまず連想したという宇佐崎さん。「他人の歩く道はポップでキュートで、まるで甘いお菓子でできているように見えますよね、という絵です」と制作意図を語る。少女と比べ、手前の道や物を明るく描いており、「色の明暗や鮮やかさの差を見ていただけるとうれしいです」としている。
幻想的な迷い道
子供のころ道に迷ったことがある人は多いはず。泣き出したい不安と、いつもとは違う環境に少し高揚する気持ち。あの頃の記憶を幻想的な光景とともに表現したのは、童話のような独特の絵柄に定評のある高野音彦さんの「まよいみち」だ。
少女が夜道を歩く。幻想的な光を帯びた夜の街。よく見ると、この街の住民は人のようで、猫のようでもある。少女の表情に現れるのは不安か、それとも冒険の高揚感か―。全ては受け手の想像に委ねられている。
自身を「方向音痴」と語る高野さん。「迷子になったときの心細さ、なんだかとんでもない所に来てしまった…という絶望感」が嫌いではないという。祝祭感のある同作は、「冒険のはじまり」をも想起させる。
人生の岐路
藤ちょこさんの「狐(きつね)の嫁入り」は、また少し違った解釈の「道」だ。「人生という長い道を共に歩むというテーマで、狐の嫁入りをモチーフに選びました」と着想の経緯を語る。
身支度を終えた狐耳の花嫁。対面し、彼女の美しさにはっと息をのむ花婿の視点を鮮やかに描写する。背景に描かれるのはつがいの鳥たち。パース(遠近法)を極力排し、日本画のような雰囲気を狙ったという。
花嫁の白無垢(しろむく)の裾にも狐の嫁入り行列が描かれる。実はもう1匹、狐が隠れているという。「せっかく大きいサイズでごらんいただける展覧会なので、探してみてもらえたらうれしいです」(藤ちょこさん)
本展ではほかにも絵師独自の世界観を描いた作品がそろう。茶道や華道をテーマにした作品、「わが道」をゆく少女を描いた作品、絵師として歩んできた自身の道程を振り返る作品…。これらの絵を鑑賞しつつ、自身が歩んできた「道」を思い返したり、これから歩む「道」に思いをはせてみるのはいかがだろうか。
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4月29日から5月8日まで(期間中無休)。午前10時~午後8時。高校生以上1200円、中学生以下無料。新型コロナ対策のため、来場時のマスク着用などが必要。問い合わせは公式サイト(http://www.eshi100.com/)の問い合わせページから。