Fukushima treated water

Tanks of treated water in TEPCO's Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant. (©Kyodo)

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北朝鮮の工作機関が、スパイとして取り込んだ韓国最大の労働組合の幹部らに東京電力福島第1原発事故に絡めて韓国社会の反日感情をあおり、日韓両国を極度の対立状況に追いやるよう指示していたことが、韓国当局の捜査で分かった。背景には北朝鮮の故金日成(キム・イルソン)主席が半世紀前に韓国攻略に向けて唱えた日韓の離間策があり、現代でも韓国社会を揺さぶっている実態が浮かび上がった。

 

韓国警察と情報機関、国家情報院は1月、韓国最大の労組の全国組織「全国民主労働組合総連盟(民主労総)」の本部などを家宅捜索。3月末には、北朝鮮工作員と東南アジアなどで接触して指令を受け、反政府活動を行ったとして、国家保安法違反容疑で、民主労総の中枢幹部や元幹部ら4人を逮捕した。

 

当局は100件以上の北朝鮮からの指令文を押収し、実態の解明を進めてきた。文化日報や中央日報などの韓国紙によると、日本政府が福島第1原発処理水の海洋放出を決定して間もない2021年5月の指令文には「放射能汚染水放流問題に絡め、反日民心をあおり、南当局(韓国政府)と日本の対立を取り返しがつかない状況に追い込め」と記されていた。

 

Fukushima
東京電力福島第1原発を視察するIAEAのグロッシ事務局長(右から2人目)。奥は処理水を保管するタンク=2022年5月19日(代表撮影)

 

日本政府が対韓輸出管理の厳格化を発表した19年7月には、北朝鮮側は「(韓国)当局と日本の対立を激化させ、各階層の反日感情を一層たきつける実践活動を進めよ」と指示。具体的方法として、日章旗を焼くデモや日本人を追い出す運動、日本大使館や領事館への奇襲デモを列挙した。

 

スパイ行為で起訴された別の左派系政治団体員に対しても、北朝鮮の工作機関は21年5月に「『福島沖で怪魚出現』といったデマをネットに大量にばらまき、社会の不安感を増幅させろ」と指示していた。

 

実際に19年夏には日本製品の不買運動が盛り上がり、大規模な反日デモも行われたが、それを企画・主導した組織の一つが民主労総だった。原発処理水放出に対しても不安を抱く韓国人が多く、反日扇動にもろい韓国社会の弱点を突いた指令だったといえる。

 

北朝鮮の対外工作に詳しい韓国自由民主研究院の柳東烈(ユ・ドンヨル)院長は、金主席が1969年や72年の演説で示した「冠のひも戦術」が指令の背景にあると指摘する。金氏は韓国を冠に、日米を頭に冠を固定するひもに例え、「南朝鮮(韓国)政権は米国と日本という2本のひものうち1本でも切れると、冠が飛ばされるように崩れてしまう」と反日・反米闘争の重要性を説いたという。反日指令は、韓国に同調者を増殖させ、社会主義体制下に「赤化統一する」という北朝鮮の野望に変化がないことを物語っていると、柳氏は説明する。

 

筆者:桜井紀雄(産経新聞ソウル支局)

 

平壌市内の金日成像と金正日像(ロイター=共同) 

 

■韓国・全国民主労働組合総連盟(民主労総)
1995年の設立当初から反米、反日、親北朝鮮の色彩が強く、暴力もいとわない過激なデモやストライキで知られる。労働組合を支持基盤の一つとする文在寅(ムン・ジェイン)前政権下で組合員数約120万人とする韓国最大の労組の全国組織となった。2016年には朴槿恵(パク・クネ)元大統領に退陣を迫るデモを企画。尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権は、法に基づき断固対応する方針を打ち出し、昨年12月には民主労総系の大規模ストを中断に追い込んだ。民主労総は反尹政権デモを繰り返し、対立が深まっている。

 

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