Chris Patten

In this Sept. 19, 2017, photo, Chris Patten, Hong Kong's last British governor, listens to questions at The Foreign Correspondents' Club to promote his new book in Hong Kong. Patten, is urging protesters in Hong Kong not to “lose faith” as Beijing appears to be tightening its control of the semi-autonomous city. The former British colony was returned to China under a “one country, two systems” framework that gives it greater freedoms. (AP Photo/Vincent Yu, File)

 

 

英国統治時代最後の香港総督、クリス・パッテン氏(76)が6月末に産経新聞とJAPAN Forwardの電話取材に応じ、中国による「香港国家安全維持法」導入について、一国二制度による香港返還を定めた中英共同宣言と「完全に反しそうだ」と懸念を示した。そのうえで、習近平政権下で「全体主義」に傾斜する中国を批判。香港問題を「良識や法の支配と共産主義の戦い」と位置付け、国際社会に一段の協調した対応を求めた。
パッテン氏は1997年の香港返還まで約5年間、総督を務め、自由選挙の拡大など香港の民主主義の基盤整備に尽力した。中国に返還する前に「可能な限り自由で平等な選挙制度を確保し、法の支配と人々の権利を保護する」ためだったと振り返った。

 

インタビューの詳報は以下の通り。

 

 

-香港国家安全維持法に対する懸念は?

 

同法は中英共同宣言に完全に反し、香港の基本法(ミニ憲法)にも反しそうだ。香港の『高度な自治』も覆すだろう。(香港で摘発された容疑者を)中国本土に送って裁判にかけることもできるようだ。香港の『法の支配』が弱体化することを主に懸念している。中国は香港の一般法律システムに中国の法律を課し、香港のビジネスや人々の生活の質に悪影響を及ぼす。7月1日は香港が英国から中国に返還されて23年の節目になるが、恐ろしい同法が導入されれば、とても悲しい日になるだろう。

 

私は、香港の人々と同じような恐怖を抱いている。香港の人口の半分以上は、本土の中国共産主義の残虐な行為から逃れた難民であることを忘れないでほしい。彼らは、中国の政権がどれほど残忍かを良く知っている。

 

-香港国歌安全維持法導入による経済的影響は

 

必ず香港に経済的な悪影響が出ると思う。中国本土への海外からの対中直接投資や、本土からの対外直接投資の6割近くが香港経由だ。実業家は、中国本土のように逮捕されるリスクを冒すことなく、香港に行きたいと考える。優れた経済活動には自由な情報の流れや移動が必要だが、(同法導入で)それらすべてが脅かされる可能性がある。

 

さらに同法は香港と中国の違いを曖昧にする。多くの国が、香港と中国本土を区別することが困難だと理解する。多くの人々が香港に残れば中国にいるのと同じような結果になると結論づけ、事業の拠点を香港以外の場所に置くべきかどうかを考えることになるだろう。

 

-中国政府は中英共同宣言について「現実的な意義はない」との見解を示している

 

ばかげている。同宣言(の効力)は2047年まで続く。

 

-中国の習近平体制に対する認識は

 

習体制下の中国共産党は過去の『権威主義』と『全体主義』に回帰した。習氏は法の支配、言論の自由、適切な教育制度を好まない。習氏が信じているのは、習氏の言葉に従い、中国共産党の言うことすべてに同意する人々だ。

 

-今後、民主主義国家は中国とどう向き合うべきか

 

民主主義国家は中国と新たな冷戦に引き込むべきではない。ただ、中国が悪事を行うと、経済や貿易で重大な結果が伴うことを確実にすべきだ。中国が悪い行動をしたときに、非難することを恐れてはならない。

 

-米国の対応をどう評価するか

 

優れた米国のリーダーシップがあるとき、世界の自由民主主義はより強くなる。ただ、トランプ米大統領は同盟国についてあまり気にしていない。歴史的に米政権は常に同盟国と協力しようとしてきたが、トランプ氏の下で国際的な同盟をまとめるのは難しいと思う。トランプ氏の次の米大統領が、中国が世界の安定に脅威をもたらすことを懸念するすべての人々をまとめるために積極的になることを期待している。

 

-ポンペオ米国務長官は5月の声明で、香港に対する優遇措置は「続けるに値しない」との認識を示した

 

中国が香港を中国本土の一部であるかのように扱った場合、米国などが香港を扱う方法に影響が出るのは避けられない。私が最後の総督だった当時、香港を特別に扱われるようにするために、毎年、米政権や米議会にロビー活動をしていた。中国に最恵国待遇を与えるために米国にロビー活動も行っていた。中国共産党はそれらの(努力)の全てを破壊した。米国のせいではなく、全て習近平氏の過ちのせいだ。

 

-1997年まで香港の主権を持っていた英国はどう対応すべきか

 

英国が現在できることは、同盟国などと協力して、香港や、中国の攻撃的な行動に関する共通の立場があると確認することだ。

 

-英政府は、英国発行の旅券を持つ香港市民の英国滞在可能期間を延長するとも表明した

 

英国は(香港の人々を助ける)実質的な一歩を踏み出した。中国が(香港国家安全維持法という)悪い案を進める場合は、英国に来る権利を持っている香港の市民をできるだけ多く歓迎することを願っている。ただ、私は香港の多くの人々は香港で静かに生活を続けたいと思うので、(英国の対策が)必要な状態にならなければよいのにと感じる。

 

-日本の香港の問題への対応は

 

日本は先進7カ国(G7)のメンバーらとともに行動すべきだと思う。日本は以前から香港との良い関係を築いてきた。香港では良い日本コミュニティーがある。(香港国家安全維持法の導入で)香港でビジネスを行ってきた日本人は東京やシンガポールに拠点を移す選択しようと考えているだろう。それは避けられないことだが、香港にとっては悪いことだ。

 

聞き手:板東和正(産経新聞ロンドン支局長)

 

 

■クリス・パッテン 英サッチャー、メージャー両政権下で、保守党の幹事長などを歴任。1992年に香港総督に任命され、97年7月1日の中国返還まで務めた。欧州連合(EU)欧州委員などを経て、2003年から英オックスフォード大名誉総長。05年に英国貴族院議員に任命されている。

 

 

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