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政府が防衛装備品である防弾チョッキのウクライナへの提供を決定したことは、侵攻を受けて戦闘が継続する国に対する支援としては異例の対応だ。ウクライナ政府の要請から決定に至るまでのスピードも異例の速さだった。ロシアの力による一方的な現状変更に対抗する陣営の一角として、強い意志を示した形だ。ただ、法的な制約もあり、対戦車砲などを求めたウクライナ側の要望に完全にこたえることができず、今後に課題を残した。
政府は2月末にウクライナ側から要望する物資リストを受け取って以降、国家安全保障局を中心に支援内容を検討した。今月2日には岸田文雄首相に防弾チョッキなどを提供する方針を説明し、4日に国家安全保障会議(NSC)4大臣会合で提供に向けた準備を決定。同日中に首相がウクライナのゼレンスキー大統領との電話会談で支援方針を伝えるという異例のスピード処理で対応した。
ウクライナに対する装備提供が可能になったのは、平成26年に閣議決定された「防衛装備移転三原則」で装備移転が禁じられる「紛争当事国」について、湾岸戦争時のイラクのように国連安全保障理事会が平和回復のための措置をとっている国と定義しているためだ。侵攻を受けた側のウクライナは三原則の「紛争当事国」に当たらないことになる。
ただ、無償提供の根拠となった改正自衛隊法116条の3は不要となった装備品を譲渡する枠組みで、29年6月の施行時はウクライナのようなケースは想定していなかった。今回の対応に当たった一人は「法の空白を突いたギリギリの判断だった」と打ち明ける。
一方、116条の3では弾薬を含む「武器」提供を認めておらず、欧米諸国がウクライナに対して行っている対戦車砲や地対空ミサイルの譲渡は見送らざるを得なかった。インド太平洋地域で武力侵攻が発生した際に今回と同じ対応をとれば、国際社会の結束を呼び掛ける日本の声が説得力に欠ける恐れもある。
ドイツは侵攻前のウクライナ支援として軍用ヘルメット5千個しか送らなかったことが国際社会で嘲笑を浴びたが、侵攻後は対戦車砲など殺傷兵器の提供を決定した。日本にとっては防弾チョッキの提供であっても大きな決断だったが、「昨日のドイツが明日の日本」にならないためにも法制度の見直しを含めた検討が必要になる。
筆者:杉本康士(産経新聞)