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5月18日、静岡県知事選に向け女性支持者らを集めた静岡市の集会で、上川陽子外相が「(知事は)大きな命を預かる仕事です。その意味で今一歩を踏み出していただいたこの方(候補者)を私たち女性がうまずして何が女性でしょうか」と発言しました。
これを受け共同通信は<「産まずして何が女性か」と上川陽子外相>とXに投稿した上で、<「私たち女性がうまずして何が女性でしょうか」と(外相は)述べた。新たな知事を誕生させるという趣旨とみられるが、出産したくても困難な状況にある人への配慮に欠けるとの指摘が出る可能性がある>と報じました。さらに英語版記事では、外相が「うみの苦しみ」という一般的な隠喩を補足説明したことを根拠に<出産と新知事を選ぶことを同列に扱った>と世界に向けて発信しました。
この報道を受け、朝日新聞など一部新聞・テレビ・野党議員は、上川外相が子供を産まない女性は女性ではないように述べたとして一斉に非難し、言葉を独り歩きさせました。ところが、SNSでは、共同通信の報道は大衆をミスリードしているという逆の意見が数多く発信されたのです。
発言趣旨とは異なる衝撃的なタイトルのこの記事には、女性支持者の会合という事実と「この方を」という目的語を巧妙に切り取ると同時に、出産困難な女性を唐突に持ち出して外相を人格攻撃する認知操作が見受けられます。記事内の情報では検証できない恣意(しい)的な曲解を読者に与え、負の感情を意図的にあおったことは明確な倫理違反と考えます。
さて、上川外相発言の2日後、中国駐日大使が、台湾新総統の就任式に日本の国会議員が出席したことに対し、「日本が中国分裂を企てる戦車に縛られてしまえば、日本の民衆が火の中に連れ込まれることになる」と発言しました。これは日本の民間人の生存権を脅かす極悪非道の戦争犯罪を中国政府が示唆したものです。
この人権蹂躙(じゅうりん)の暴言に対し、共同通信は日本政府が翌日抗議するまで少なくともウェブ上で報じることはありませんでした。また朝日新聞にいたっては「火の中」という表現は「火坑」という困難を表す語の稚拙な直訳であるとして中国政府を擁護しました。しかし、流暢(りゅうちょう)な日本語を話す同大使が主張の根幹を誤訳すると考えるには無理があります。
悪意が不在の日本の外相発言に対し、趣旨を曲解して断罪する一部新聞が、悪意に満ちあふれた中国の大使の暴言に対しては、不自然に受け流したり、趣旨を曲解して擁護したりするのは、読者に対する善悪の認知操作であり、その信頼に対する裏切りです。
筆者:藤原かずえ(ブロガー)
マスメディアの報道や政治家の議論の問題点に関する論考を月刊誌やオピニオンサイトに寄稿している。
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2024年6月16日付産経新聞【新聞に喝!】を転載しています