A 3D printed Facebook's new rebrand logo Meta is seen in front of displayed stock graph in this illustration

A 3D printed Facebook's new rebrand logo Meta is seen in front of displayed stock graph in this illustration taken on November 2, 2021. REUTERS/Dado Ruvic/Illustration

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フェイスブック(FB)やツイッターなどのSNS(会員制交流サイト)で、中国関係者とみられる偽アカウントが政治的な投稿を行うケースが後を絶たない。実在しない欧米などの民間人を装い、新型コロナウイルスの起源や新疆ウイグル自治区の人権問題について、中国政府の意向に沿った主張を投稿。中国では規制されて使えない欧米のSNSを用い、国際世論の風向きを変えようと情報工作を展開している。

 

 

実在しないスイス人生物学者

 

米メタ社は昨年11月、運営するFBやインスタグラム上から、偽情報の拡散を目的にしたアカウント約850個を削除したと発表した。パレスチナ自治区やポーランド、ベラルーシに関連するものも含まれていたが、全体の7割を超える600個以上が中国に関係するアカウントだった。

 

調査の結果、これらは昨年夏以降、中国本土から発信され、米英の英語話者や台湾、香港、チベット自治区の中国語話者を標的にしていたことが判明。主にコロナに関する偽情報を投稿していたという。

 

メタ社が調査する契機となったのが、スイス人生物学者の「ウィルソン・エドワーズ」を名乗るFBの偽アカウントだった。世界保健機関(WHO)が求める中国でのコロナ起源調査に関し、「米国がWHOに圧力をかけ、中国に責任を押し付けようとしている」と主張し、調査に疑義を呈する投稿を行っていた。

 

投稿は、中国国営中央テレビの国際放送CGTNや中国共産党機関紙、人民日報といった中国メディアが引用。だが、在中国スイス大使館は昨年8月、自国に住民登録がない人物だとして、「架空の学者を引用しフェイク(偽)ニュースを流している」と削除を求める声明を発表していた。

 

 

「ウイグル人は幸せ」と拡散

 

偽アカウントは中国内外の個人とつながっており、20カ国超にある中国国営インフラ企業の従業員が投稿を拡散。中国の公安や軍のIT支援を行う情報セキュリティー企業「四川無声信息技術有限公司」の社員も含まれていたという。

 

また、通信にVPN(仮想私設網)を使うなど、発信地を特定しづらくする工夫も施されていた。メタ社は一連のもくろみが「失敗に終わった」としたが、中国による情報工作の実態が表面化した一件となった。

 

一方、ツイッター社も昨年12月、中国政府の関与が疑われるアカウント計2160個を閉鎖したと発表した。多くが偽アカウントとみられ、政府を支持するウイグル人の映像作成を当局から委託されているという新疆の中国企業のアカウントなども含まれていた。

 

研究パートナーを務めたオーストラリア戦略政策研究所(ASPI)の報告書によると、投稿は早いもので2019年春から開始。ウイグル人弾圧は「噓だ」とツイートしたり、実在しないウイグル人を装い「ウイグル人は幸せに暮らしている」と投稿したりしていたという。総ツイート数は6万件を超えていた。

 

多くが元々はポルノ動画の配信などに利用され、今は使われていない休眠アカウントを乗っ取り再利用したものだったという。一部は中国の外交官や当局者も引用してツイート、拡散しており、ASPIは「中国共産党による巧妙な偽情報工作だ」と指摘した。

 

 

中国共産党、ネットが闘争の「主戦場」

 

中国最高指導部の元メンバーに性的関係を迫られたと暴露したテニス選手、彭帥さんの問題でも、「彼女は無事だ」との情報を広めるため、偽アカウントが暗躍した可能性がある。

 

米ニューヨーク・タイムズ紙と調査報道機関、プロパブリカの共同分析によると、所在不明だった彭さんの元気そうな姿などを投稿した中国国営メディアの記者のツイートを拡散したアカウントの大半が、フォロー、フォロワー数ともにゼロだったという。

 

ツイートをシェアした数百の投稿が1カ月もたたずになぜか消去されていたとも指摘し、同紙は「特定のアカウントを増幅させるためだけに作られた偽アカウントだ」と断定。「自分たちの好むシナリオを広めるための組織的キャンペーンの一環だ」と分析した。

 

中国共産党は21年11月、党創建100年に際し、党史上3度目の「歴史決議」を採択。党中央はイデオロギー闘争の主戦場として「インターネットを高度に重視している」などと書かれており、世界に訴えかけられるSNSを利用した宣伝工作は闘争の結果ともいえそうだ。

 

AP通信と英オックスフォード大も21年5月、中国のプロパガンダの実態に関する共同調査結果を公表している。大量の偽アカウントが中国外交官らの投稿を広めているとして、「親中的な言論が世界で多くの支持を得ているかのような錯覚を生んでいる。放置すれば中国の影響力を大幅に強める事態になりかねない」と警鐘を鳴らした。

 

一方、中国外務省は「友好関係を深め、事実に基づく交流を促進する目的で他国と同様にSNSを利用している」とし、偽情報の拡散などは「全くの事実無根だ」と反論している。

 

筆者:桑村朋(産経新聞)

 

 

2022年1月7日付産経新聞【国際情勢分析】を転載しています

 

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