政府専用機で羽田空港に到着し、取材を受ける際に涙ぐむウクライナ避難民の家族
=4月5日
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ロシア軍による侵攻を受け、ウクライナから日本に逃れた「避難民」が1000人を超えた。官民で異例ともいえる手厚い支援がなされているが、「難民認定されないミャンマーやアフガニスタンの人がいる中、ウクライナだけ特別扱いするのか」といった声も上がる。難民の受け入れ数が少なく、難民に冷たいイメージがある日本。だが、ある専門家は「日本は真の難民を受け入れてきた。ウクライナへの人道支援と難民認定は分けて考えるべきだ」とし、安易な難民制度批判に警鐘を鳴らす。
異例の厚遇
出入国在留管理庁によると、ウクライナの避難民は5月24日現在で1047人となった。政府は避難民に90日間の「短期滞在」の在留資格を付与。必要に応じて1年間就労も可能な「特定活動」に変更でき、情勢次第では更新も可能など、積極的に受け入れを進める。
支援も過去に類のない手厚さだ。政府は4月、親族や知人がいない避難民らに1日最大2400円を支給するなどの生活支援策を発表。最大16万円の一時金や医療費も負担する。各自治体も工夫を凝らした支援を行う。民間では、日本財団が生活費支援で1人年100万円、1世帯年300万円を上限に援助するなど、多様な支援が出そろう。
これまで、難民認定率の低さから「難民鎖国」と批判されてきた日本。ウクライナの人々は難民条約に基づく「難民」ではなく特例的に「避難民」として受け入れているが、充実した支援が迅速に打ち出されていることは、「異例中の異例」(入管関係者)だ。
ウクライナ以外は冷たい?
一方、これを機に高まっているのが、「アフガンやミャンマーの人々になぜ同じ支援ができないのか」といった議論だ。両国の避難民には難民申請が通らない人がおり、ウクライナへの手厚い支援とは対照的に見えるため、「難民に冷たい日本を変えよ」との論調がみられる。だが、実際はどうなのか。
5月13日に入管が発表した21年の難民認定数は、申請者2413人のうち74人(約3%)。一方、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、20年の主要国の認定数はドイツ6万3456人(41・7%)、カナダ1万9596人(55・2%)、米国1万8177人(25・7%)などで、数字上は日本は少ない。
少ない「本物の難民」
だが、難民審査参与員を務めるNPO法人「難民を助ける会」の柳瀬房子名誉会長は「難民鎖国」論に違和感を覚える。「真に救済すべき難民を見つけようと、現場は一人一人と懸命に向き合っている。日本は決して難民に冷たい国ではない」と訴える。
難民認定の流れは、申請があれば入管難民調査官が事実を調査。不認定となれば不服申し立てができ、3人1組の難民審査参与員の審理に進む。柳瀬氏は「一人100ページ以上に及ぶ資料を読み込んで対面で聞き取る。それでも認められない人が大半だ」と嘆く。
柳瀬氏は日本の難民認定率が低い理由に、「就労目的がほとんどで、本物の難民があまりいないこと」を挙げる。参与員として3000件以上のケースを審理してきたが、難民と判断したのは10件未満。大半が個人的事情で申請しているのが実態だという。
「帰国したら借金取りに追われる」「不倫相手の家族に殺される」「酒を覚えたのでイスラム教の国に帰れない」-。不認定ケースの一例だ。最近は「来日後に交流サイト(SNS)に政府批判を投稿し、帰国すれば狙われる」といった理由も増えているという。
入管は18年、就労目的の偽装申請に厳しく対応する運用を開始。2回目以降の再申請者の就労を認めないなどした結果、17年に約2万件だった申請者は18年に半減、21年は2000人台に落ちた。それだけ就労目的が多かった証拠だろう。UNHCRによると世界の難民の42%は子供だが、日本では20歳以上が圧倒的多数を占める。
問われる日本の覚悟
また現行法上、不認定になっても何度でも申請できるため、2回目以降の再申請者が21年は全体の約半数を占めるのも特徴的だ。柳瀬氏は「過去には30年近く日本に滞在し、6回目の申請を行った人も見た」と話す。
他にも日本を目指す難民が少ない背景もある。UNHCRによると、難民全体の73%が近隣国に避難している。シリアやアフガンも多くが近隣のトルコやパキスタンに逃れており、海で囲まれた遠い日本はそもそも選ばれにくい。
制度上の課題がないわけではない。審査の平均処理期間は一次審査に約32カ月、不服申し立てに約20カ月もかかっており、柳瀬氏は「明らかに難民ではない人には早く結果を出すべきだ。それが申請者、審査側双方のためだ」と語る。
こうした現状を踏まえた上で、柳瀬氏はウクライナ避難民などの人道支援とアフガン、ミャンマーの難民認定は「別の視点で考えるべき問題」と強調する。認定されないのには理由があるとし、「受け入れ数が多ければいいものでもない。個別のケースごとに見極める必要がある」と冷静な議論を呼び掛ける。
一方でウクライナ問題を機に最も考えるべきは「真の共生社会」に向けた日本の覚悟だという。「難民問題は外国人の話の一部でしかない。少子高齢化の日本が今後、外国人をどう位置づけていくのか。単に労働者としてなのか、国力を高めるための人材としてなのか。そこを曖昧にしておくと、難民制度は就労目的の抜け穴として利用され続ける」と訴えた。
筆者:桑村朋(産経新聞)
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2022年5月28日付産経新聞【国際情勢分析】を転載しています