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韓国で対北朝鮮政策を統括する金暎浩(キム・ヨンホ)統一相は4月1日までに、産経新聞との単独インタビューに応じ、新たな南北統一構想に、韓国人・日本人拉致問題を含む北朝鮮の人権問題の解決を柱の一つとして盛り込む考えを表明した。日本など国際社会との協力強化も新構想で打ち出す方針で、対北政策の全面転換を明文化する。日本人拉致被害者に関する情報収集を強化し、韓国と日本の被害者家族間の交流も支援する。
金統一相は「国家の最も重要な責務の一つが自国民の保護だ」と述べ、拉致被害者ら北朝鮮に抑留された人々の解放を韓国政府の「最優先」課題とする考えを示した。
韓国の従来の統一政策は北朝鮮政権との対話や協力に重点を置き、拉致被害者らの救出を求める活動を対話の妨げとみなす姿勢が政府や世論で強かった。これに対し、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は3月の演説で、北朝鮮に「自由や人権という普遍的価値を拡張することこそが統一だ」と主張。韓国政府はこの考えの下、新たな統一構想の策定作業に着手している。
金統一相は、日米韓首脳が昨年8月の米キャンプデービッドでの首脳会談で、拉致問題などの解決に向けた協力や自由で平和な統一された朝鮮半島を日米が支持することで合意した重要性を指摘。この合意の上に統一政策を進める方針を示し、「統一の過程で日本の政府や国民の支持と協力が非常に重要だ」と強調した。
統一省の傘下機関は韓国内の脱北者への聞き取り調査をしているが、2月からはこの際に日本人拉致被害者の情報も問う取り組みを始めた。日韓の拉致被害の家族や支援団体間の活動や交流も支援する計画で、金統一相は訪日が実現すれば、横田めぐみさん(59)=拉致当時(13)=ら日本人拉致被害者の家族との面談も「検討したい」と述べた。
北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記の妹、金与正(キム・ヨジョン)党副部長が最近、岸田文雄首相の訪朝の可能性を巡って揺さぶりをかけている点について、金統一相は、韓国とキューバが国交正常化するなど北朝鮮の外交的孤立の深まりが背景にあると分析。一方で、与正氏が日本から首脳会談を打診されたと公開した翌日に日本との交渉拒否を発表するなど「一貫性がない」と北朝鮮の態度を批判した。
金統一相は、朝鮮半島の平和や非核化に役立つなら「日本と北朝鮮の対話に反対しない」とし、日本と緊密に意思疎通する重要性を強調した。
筆者:桜井紀雄、時吉達也(産経新聞ソウル支局)
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■金暎浩(キム・ヨンホ)
国際政治学者、韓国・誠信女子大教授(休職中)。2011~12年に李明博(イ・ミョンバク)政権で大統領府統一秘書官。15年から慶応大で訪問教授を半年間務めた。昨年7月から統一相。64歳。