中国が約束通り香港に高度の自治を認め、香港住民の大規模デモを暴力で鎮圧しないよう求めることは、8月の先進7カ国(G7)サミットの合意だったはずだ。英政府は中国の意を体した香港警察によるデモ隊への実弾発射を非難する外相声明を出し、米下院はデモ隊の民主化要求を支援する法案を全会一致で可決した。しかし、日本政府の反応は煮え切らず、香港当局による弾圧やその背後にいる中国を批判しない。日本の国会も香港問題で動く気配が全くない。日本は西側の先進民主主義国の中で異質の国になってしまったのか。
弾圧批判の急先鋒は英国
G7のうち、香港デモの弾圧に一番敏感に反応しているのは旧宗主国の英国だ。7月末に発足したジョンソン政権のラーブ外相は、10月1日に香港警察の発砲でデモ隊の高校生が重傷を負うと、即座に声明を発表し、「実弾の使用は行き過ぎであり、事態を悪化させるリスクを冒すだけだ」と非難した。4日、香港政府がデモ隊のマスク着用を禁止する覆面禁止法を緊急立法で制定すると、ラーブ外相は再び声明を出し、「政府は緊張を高めることを避け、緩和しなければならない」と批判した。
フランスのマクロン大統領は8月末に主宰したG7サミットの成果文書に、「G7は香港に関する1984年の中英共同宣言の存在と重要性を再確認し、暴力を回避するよう求める」という一文を盛り込んだ。中英共同宣言は中国と異なる香港の社会・経済制度を維持し、香港住民の基本的人権と自由を保障するとうたっている。当時、香港に隣接する中国の深圳に中国人民解放軍所属の武装警察が集結しており、「暴力」が中国の軍事介入を念頭に置いたものであることは明らかだった。
実は、トランプ米大統領は香港のデモに冷淡だ。米中貿易戦争の「取引」の一環として、米政府が香港問題で沈黙することを習近平中国国家主席に約束し、トランプ政権高官にデモ隊への好意的な発言を禁じたという話さえ米英の主要メディアで報じられている。
しかし、トランプ大統領の冷淡さを吹き飛ばすのが米議会の積極的な関与だ。下院が超党派で可決した香港人権民主主義法案は、とりわけ国務省に対し、中国政府の行動によって香港の自治がどの程度損なわれたかを判定する報告書を議会に毎年提出するよう義務付けている。
国会が見習うべき米議会の関与
香港情勢に関する菅義偉官房長官のコメントは、過去2カ月間ほとんど変わらない。①多数の負傷者が出ていることを大変憂慮している ②関係者の平和的話し合いにより事態が早期に収拾され、香港の安定が保たれることを強く期待する―と繰り返すだけだ。
来年春に予定される習主席の国賓としての来日をつつがなく終えるため、「中国を刺激しないよう及び腰になっている」との声が自民党内から漏れてくる(読売新聞)。日本政府にとっても国会にとっても、うわべだけの「日中友好」が最優先事項になっていないか。
筆者:冨山泰(国基研企画委員兼研究員)
国家基本問題研究所(JINF)「今週の直言」第628回(2019年10月21日付)を転載しています。