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「父が旅立ち、最期は母の腕の中で安らかに眠り、静かに見送りました」
タレントのハリー杉山さん(37)から父親の英国人ジャーナリスト、ヘンリー・スコット・ストークスさんの逝去(83歳)の訃報を電話で受けたのは4月19日夜だった。
50年以上、親交がある外交評論家の加瀬英明さんは、物事を善悪でなくフェアで判断する英国の知識人で、日本の最も良き理解者の一人だったと評し、「現代の(真の日本文化を世界に広めた)ラフカディオ・ハーンだった」と悼んだ。
1938年、英国南西部サマセット州グラストンベリーに生まれ、オックスフォード大学修士課程修了後の64年、英紙フィナンシャル・タイムズ初代東京支局長として来日。67年から英紙タイムズ、78年からは米紙ニューヨーク・タイムズでそれぞれの東京支局長を務め、日本外国特派員協会最古参として日本を正しく把握し、発信した。
安倍晋三元首相の父親の安倍晋太郎元外相、祖父の岸信介元首相を取材した唯一の外国人記者だった。
2013年、著書「英国人記者が見た連合国戦勝史観の虚妄」に「いわゆる『南京大虐殺』はなかった」と記し、世界の既成概念に欧米人で初めて挑戦した。連載「話の肖像画」のインタビューでは、「日本が悪く、南京大虐殺はあったと信じていたが、滞日が長くなるにつれ、米国が押しつけた歴史観が誤りと認識できた。反日国家のプロパガンダに惑わされず、日本は誇りある国になってほしい」と励まされた。
そして日本が侵略したというのは「連合国側の戦勝国史観」と言い切り、「日本はアジア諸国を白人支配から解放した」と訴えた。連合国軍総司令部(GHQ)の洗脳で自虐史観を植え付けられた日本人に自信と誇りを持たせる発言に感動し、ロンドン支局長として渡英した際、ハリーさんが卒業した学校に長男を通わせるなど家族ぐるみの交際を続けてきた。
ストークスさんが、「日本」を理解した背景に作家、三島由紀夫との出会いがある。三島は、米国に日本が「属国化」されたことを嘆き、「日本魂を護る」ため、連合国戦勝史観の呪縛からの脱却を唱えた。ストークスさんが英語で書いた三島由紀夫伝は、英米などで名著となった。
戦後、急成長した日本人の行動の源を知りたくて来日したが、暮らすうち日本の洗練された文化などに魅せられ、あき子夫人と結婚し、とどまった。
シャイで注意深く節度があり、あまり直接的に発言しない-。同じ島国である日英の共通点が、日本に順応できた理由だろう。両国関係が急接近している今、ストークスさんを失ったことは誠に残念だ。
父親として、一人息子のハリーさんに「私以上に文才がある。将来、活字メディアでも力を発揮してほしい」と期待していた。ハリーさんは気丈に語った。
「無償の愛を注いでくれた父の魂を受け継いで一生懸命生きます」
筆者:岡部伸(産経新聞論説委員)