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年間3兆円以上の売上高を誇るJRA(日本中央競馬会)には、当然ながら優秀な女性職員も多い。史上初となる女性の部長か競馬場の場長(もしくは両方)を期待していたら、その前にJRA初の女性調教師が誕生した。7日に2024年度の新規調教師試験の合格者9人が発表され、その中に調教助手を務める46歳の前川恭子さんがいた。
藤田菜七子の活躍をきっかけに、今村聖奈、永島まなみら女性騎手の躍進が目覚ましい。とはいえ中央競馬の厩舎で働くスタッフ2317人のうち女性は32人。全体の1・38%なので女性調教師はまだまだ先の話だろうと勝手に思っていた。それだけに前川さんの朗報は驚きでもあり、新しい時代の幕開けを感じさせた。仕事と育児を両立させ、5度目の挑戦で合格。頭の下がる思いだ。
1998年のフランス出張で、数々の名馬を育てた女性調教師の第一人者、クリスティアーヌ・ヘッドさんを取材した。花が生けられ、ごみひとつない厩舎。こまやかな目配りで、かつ威厳を持ってスタッフに指示する姿が印象的だった。誘われて同席した夕食時には自身の出自やフランスの競馬事情を丁寧に教えてくれた。日本競馬についても詳しく、極東から来た若輩者に優しく接してくれた。
前川さんには、ヘッドさんのような調教師になることを期待する。「女性でも男性でも馬より力は弱いので、女性だからといって、できない仕事ではない」という言葉に仕事に対する強い意志とプライドを、「小さな変化に気付くことで、より健康で全能力を発揮できるようにしてあげたい」にはヘッドさんと同様の資質を感じる。フロントランナーとして旋風を巻き起こしてほしい。
筆者:鈴木学(サンケイスポーツWEB編集長)