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世界70カ国・地域以上で大型選挙が行われる今年、交流サイト(SNS)を通じて虚偽情報やデマなどを拡散し、世論操作を行う「インフルエンスオペレーション(影響力工作)」への警戒感が強まっている。人工知能(AI)で政治家の顔や声を本物そっくりに加工した音声や動画は各国で広がり、11月の米大統領選に向けて、より活発化する恐れもある。
「あなたの一票が違いを生むのは11月です。今週の火曜日ではありません」
米ニューハンプシャー州で今年1月、バイデン大統領になりすまし、予備選での投票を見送るよう呼びかける偽電話が有権者にあった。AIを使って作成されたとみられ、米当局が捜査している。
1月に行われた台湾総統選でも偽情報が飛び交った。台湾の非営利組織「台湾ファクトチェックセンター」によると、総統選挙中に流れたデマのほぼ半数は、過去の選挙中に流布されたデマ情報とほぼ同じか類似していたという。
偽情報で有権者に疑念を植え付け
与党が票を水増しするために特殊なインクを使用したり、別の投票箱を使用したりしているという偽情報は、選挙前に有権者に選挙プロセスに対する疑念を植え付けることが目的だとしている。
日本でも衆院3補欠選挙が16日に告示されたことに絡み、松本剛明総務相が同日の閣議後会見で「海外の選挙で偽・誤情報が出回ることにより、選挙に影響が出ているのではないかという状況を認識している」と言及。制度面を含めた総合的な対策の検討を進めるとした。
こうしたSNSなどを介して虚偽情報やデマ情報を拡散する世論操作は「インフルエンスオペレーション」と呼ばれる。特定の政治的、社会的、経済的目標を達成するために、ターゲットとなる個人や集団の認識や行動を意図的に変えることを目的としている。
インフルエンスオペレーションの脅威は、AIの進化によって偽情報が簡単に作れる一方で、サイバー攻撃のように明確な人的被害や物的被害が確認しづらいため、表面化しにくい。
フェイスブックのアカウント削除
カナダ政府は昨年10月、2018年からインフルエンスオペレーションキャンペーンを展開する「スパモフラージュ」の背景には中国がいると注意喚起した。米IT大手メタは、関連するフェイスブックのアカウント約7700件などを削除。東京電力福島第1原発処理水の海洋放出に関する偽情報の流布にも関与されたとされる。
米マイクロソフトなどIT企業計20社は今年2月、AIの偽情報などで選挙が妨害されるのを防ぐため、連携して対策することに合意した。
情報セキュリティー会社「トレンドマイクロ」の成田直翔氏は「いくつかの情報を複合的に巧みに織り交ぜて展開するため、受け手側が操作された情報なのか判別するのが難しい」と指摘。その上で、「情報リテラシーの向上や偽情報が拡散されにくい環境を整える必要がある」と訴えている。
情報織り交ぜ3つの手法
インフルエンスオペレーションは「MDM」といういくつかの情報を織り交ぜた手法が用いられている。
最初のMのミスインフォメーション(誤情報)は誤った歴史的事実や誤解を招く統計などを意図的に用いて、拡散や引用することを指す。
次のDのディスインフォメーション(偽情報)は悪意を持って作成された偽情報のこと。ロシアのウクライナ侵略では、ゼレンスキー大統領が兵士や市民にロシア側への投降を呼びかけている偽動画がフェイスブックに投稿された。日本でも昨年、岸田文雄首相の偽動画がネット上で拡散された。
3番目のMはマルインフォメーション。真実に基づいているが悪意のある情報を指す。事実を極端に誇張したり、否定的な情報を流したりすることで分断や対立を深めるきっかけになりかねないという。
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「ファクトチェック課題」
国際大グローバル・コミュニケーション・センター 山口真一准教授(ネットメディア論)
フェイクニュースを規制する法律をすでに作っている国では、それを理由に政権批判するジャーナリストが捜査対象になるなどしていることから、日本としては法規制で強く偽・誤情報を封殺しようとするのは避けている。日本ではプラットフォーム(配信基盤)事業者との連携、メディア情報リテラシー教育など、多角的な対策を進めている。
外資系のプラットフォーム事業者が多い中で、利用者に日本語で対応できる態勢が整っていることも重要だ。総務省の有識者会議が3月に各事業者への聞き取り調査を行ったところ、各社で対応に差がみられた。
また、事実かどうか調べる「ファクトチェック」について、国際ファクトチェックネットワーク(IFCN)に加盟する日本の団体は3つに増えたが、偽・誤情報の量に比べて、ファクトチェックの量が足りていない。インドネシアのファクトチェック組織は年間1万件行っているが、日本は全ての組織を合わせても数百件にとどまっている。改善はされているものの課題は多い。
筆者:大渡美咲(産経新聞)