Rhino_2 (courtesy wikimedia commons)

Gray Rhino at Werribee Open Range Zoo, Australia. Photo by Wj32)

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先日のコラムで「ブラックスワン(黒い白鳥)」という言葉を紹介した。従来の常識ではありえない事態の発生により、社会が大きな衝撃を受ける。新型ウイルスの世界的大流行もその一つである。

 

国際金融の世界で、これと対をなす言葉として使われるのが「灰色のサイ」である。高い確率で起こるとわかっていながら、軽視されがちな問題を指す。灰色が当たり前のサイは普段はおとなしい。ところが一斉に走り始めると誰も手がつけられなくなる。

 

環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)をめぐっても、どうやらサイが動き始めたようだ。もともとTPPは、米国のオバマ政権が中国の台頭を牽制(けんせい)するために推し進めたものだ。ところが一国主義のトランプ前政権下の米国が離脱し、日本の主導により11カ国の参加する大型連携協定をまとめた経緯がある。

 

米国不在の機会を中国が見逃すわけがない。昨年11月には、習近平国家主席が参加への興味を表明していた。今回の加入申請は十分予想できた。もっとも、TPPが参加国に求めている高いレベルの貿易のルールを果たして守れるのか、かねて疑問の声が上がっていた。加入には参加国の全会一致の賛成が必要である。対立が深まるオーストラリアが支持する可能性も低い。

 

それでも中国は、強大な経済力を武器にすればハードルを乗り越えられると踏んだようだ。慌てたのは、以前から加入を熱望していた台湾である。中国が先に加入すれば、門前払いされるのは目に見えている。早速中国に対抗して加入を申請した。

 

英国の加入交渉が続く中、情勢は風雲急を告げている。日本は、米国に復帰を促しながら、サイの暴走を阻止しなければならない。新政権は早速、試練に直面する。

 

 

2021年9月24日付産経新聞【産経抄】を転載しています

 

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