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意外なところで明治天皇の御製(ぎょせい)を目にした。在日ウクライナ大使館が25日、ツイッターで引用したのである。「よもの海みなはらからと思ふ世になど波風のたちさわぐらむ」。明治天皇が日露戦争開戦に際し、本当は戦争を避けたいとの願いを込めてつくられた歌である。
大使館のツイッターはまた、この歌を昭和天皇が読まれたことにも言及していた。ウクライナ政府が昭和天皇の肖像を、ナチス・ドイツのヒトラーらと並べ、全体主義の象徴と描く動画をツイッターに投稿(現在は肖像削除済み)したことへのおわびとしてだった。
日米開戦3カ月前の昭和16年9月6日の御前会議で、昭和天皇はあくまで外交交渉に重点を置き努力せよと諭し、明治天皇御製を読まれた。当時、大本営陸軍部参謀だった元伊藤忠商事会長、瀬島龍三さんは上官から伝えられて感動したという。
こんな逸話もある。昭和18年5月29日、北太平洋のアッツ島守備隊から大本営に最後の夜襲を行うと決別の電報が入る。上奏を受けた昭和天皇はただ一言、「将兵は最後までよくやった。このことを伝えよ」と届く相手のない発電を求められた。瀬島さんは回想録で、「こと切れた子供の名を呼び続ける親の気持ちのような大御心(おおみごころ)」と記している。
昭和天皇の誕生日で、祝日法が「激動の日々を経て、復興を遂げた昭和の時代を顧み、国の将来に思いをいたす」と定める29日の「昭和の日」は平成18年まで「みどりの日」だった。昭和天皇の平和を望み、国民を慈しまれた思いを伝えるために、どちらがふさわしいかは自明である。
今、明治天皇の誕生日に当たる11月3日の「文化の日」を「明治の日」に改称する超党派の取り組みが本格化してきたのも、当然だろう。
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2022年4月30日付産経新聞【産経抄】を転載しています