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フィリピンの次期大統領はかつての独裁者・故マルコス大統領(在任1965~86年)の長男、フェルディナンド・マルコス元上院議員に決まった。来月末に就任して以降、6年間、国の舵(かじ)取り役を担う。
退任間際になっても人気の高いドゥテルテ政権の「路線継承」を掲げているが、国際社会の最大の関心事は南シナ海の安全保障政策であり、力ずくの海洋進出を続ける中国とどう向き合うかだ。
ロシアは国際社会の制止を無視し、ウクライナを侵略した。南シナ海の主権を一方的に主張する中国が同様の暴挙に出る可能性は否定できない。現政権のように経済的利益を優先し、対中融和を進めることは極めて危険だ。「自由で開かれたインド太平洋」の実現を目指す日本と米国はマルコス氏への働きかけを強め、中国への警戒を喚起しなければならない。
重要なのは、2016年の国連海洋法条約に基づく仲裁裁判所の判決である。フィリピンが提訴し、中国の南シナ海での領有権主張に根拠はないと認めた。
ルールに基づく国際秩序を維持するために絶対に譲れない一線であり、中国の拡張主義を封じるよりどころとせねばならない。
今月の日米首脳会談や日米豪印によるクアッド首脳会合などで、改めてこの裁定に言及し、当事者として裁定に沿った行動を貫くよう促してほしい。
日本とフィリピンは先月、初の外務・防衛閣僚協議(2プラス2)を開催し、防衛協力の強化で一致した。米比両軍は過去最大規模の合同演習を実施した。実務的な協力も積み重ねたい。
マルコス氏は「ピープルパワー(民衆の力)政変」で失脚した父親の治世を「古き良き時代」と位置付け、交流サイト(SNS)を駆使した選挙戦で若年層に浸透した。国民の平均年齢は25歳前後で多くは独裁時代を知らない。
独裁者の再来を心配する声もあるが、懸念されるのはむしろ「麻薬戦争」などで見せたドゥテルテ大統領の強権的手法をそのまま継承して欧米の批判を浴び、こうした手法に寛大な中国の一層の接近を許すことである。
就任まで熟慮を重ね、納得できる政策を示してほしい。自由と民主主義の指導者として「マルコス大統領」の名を残したいなら、国際社会は協力を惜しむまい。
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2022年5月12日付産経新聞【主張】を転載しています