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インドのサンジェイ・クマール・バルマ駐日大使が19日までに産経新聞の単独インタビューに応じ、24日に日本で開かれる日米豪印4カ国の協力枠組み「クアッド」首脳会合について、「インド太平洋地域の平和と安定、法の支配を実現することが大きな目的だ」と語った。海洋進出を強める中国を念頭に「覇権主義的な動きには反対だ」とも述べた。
バルマ氏は、「クアッドは軍事同盟ではなく、さまざまな問題を協議する場だ」とした上で、「現状変更を試みる国を説得するために、この枠組みを活用すべきだ」と強調した。台湾有事への対応に関しては「有事が発生した場合の対応を考えるより、有事が起きないようにすることが重要だ」と語った。
一方、ウクライナ危機をめぐり、歴史的にロシアと友好関係にあるインドはこれまでロシアへの直接の批判を避け、対露制裁にも乗り出していない。
これに対してバルマ氏は「インドは独立した立場を取っている。経済制裁は一般国民に苦痛を与えることになる」と説明。今後は、ロシア、ウクライナ両国との関係を生かし、外交と対話による停戦を求めていく考えを示した。
主なやりとりは次の通り。
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◆説得にクアッド活用
-クアッド首脳会合で議論される主な課題は
「各首脳が何を議論するか先取りすることはできないが、クアッドはインド太平洋地域の平和と安定、法の支配を実現することが大きな目的だ。この地域や世界のどんな場所であっても覇権主義的な動きには反対する。こうしたことがクアッドで話し合われるべき課題だ」
-日米豪印は中国とどう向き合うべきか
「中国だけではなく、いかなる国であっても一方的な現状変更の試みは受け入れられない。そういった国を説得するために、この枠組みを活用すべきだ」
-台湾有事が起きた場合への対応は
「クアッドはそうした衝突を防ぐための役割もある。ただ、紛争が起きてからでは遅すぎる。有事が発生した場合の対応を考えるよりも、有事が起きないようにすることが重要だ」
-インドはウクライナ危機に中立的な立場を取っている
「中立的な立場ではなく、独立した立場を取っている。インドの国益と国家戦略は、地域の平和と安定、対話に価値を置くと同時に、国内の要請に基づいて進められるべきだ。ロシアに対する経済制裁は、個人や組織より一般国民に苦痛を与えることになる。わが国はいかなる国に対する経済制裁も支持しない」
◆自衛隊機で行き違い
-インドは対露貿易を継続している
「インドは14億人近い人口を抱え、必要とするエネルギー輸入量は膨大だ。これから発展していく国でもあり、全ての先進国のようにエネルギー使用量はもっと増えるだろう。ただ、エネルギーはイラクやイラン、サウジアラビアから幅広く輸入しており、対露依存が高いわけではない」
-ロシアのウクライナ侵攻を止めるためにインドが果たすべき役割は
「インドはどの国とも対話ができる数少ない国の一つだ。わが国のモディ首相やジャイシャンカル外相は、ロシアとウクライナ双方のカウンターパートと連絡を取っている。両国には外交を通じた建設的な対話を求めていく」
-自衛隊機がインドでの支援物資積み込みを認められなかった
「自衛隊機がインド領空を通過する内容で合意したつもりでいたが、行き違いがあったのかもしれない。日本のウクライナ支援を妨害しようとした意図はない」
聞き手:岡田美月、広池慶一(産経新聞)
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【プロフィル】サンジェイ・クマール・バルマ氏
1988年、インド外務省入省。インド工科大(IIT)デリー校で物理学修士号を取得。在香港総領事館や在中国大使館などを経て、駐スーダン大使、駐イタリア・ミラノ総領事などを歴任。2019年1月から現職。56歳。