オンラインで記者会見するミチェル・バチェレ国連人権高等弁務官
=5月28日(共同)
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国連のバチェレ人権高等弁務官が中国新疆ウイグル自治区を訪問した。懸念された通り、ウイグル族ら少数民族に対する人権侵害の実態解明にはほど遠く、中国側の宣伝に利用されるだけに終わったようだ。
同自治区をめぐってはウイグル族らが収容された施設の内部写真や2万人以上の収容者リストなど、中国当局の内部資料数万件が流出したばかりだった。
バチェレ氏は人権侵害のさらなる糾明をすべきだったが、同氏は今回の訪問について「調査ではない」との立場をとり続け、中国側に配慮する姿勢を示した。調査でなければ何のために同自治区を訪れたのか理解に苦しむ。
今回明らかになった内部資料は凄惨(せいさん)な実態をあらわにしている。手錠や足かせ、覆面をつけられた収容者の写真や、棒を持った警官たちに囲まれたり、何かを注射されたりしている収容者の写真も含まれている。外国に逃れた元収容者たちのこれまでの証言を裏付けるものばかりである。
流出資料には、中国共産党幹部が「海外からの帰国者は片っ端から捕らえろ」「拘束者が数歩でも逃げれば射殺せよ」と指示していた発言記録もあった。海外に行っただけで拘束されるなら「テロ対策」に基づく収容措置とする中国当局の主張は成り立たない。
こうした中で訪中したバチェレ氏の同自治区での滞在は2日間にすぎず、訪問先も中国主導で決められたもようで、計100万人以上が強制収容されたと指摘される施設の実態に迫ることなどできるはずもなかった。国連は改めて本格的調査を行うべきだ。
これに対し、ドイツのベーアボック外相は中国の王毅国務委員兼外相とオンライン会談し、内部資料について「深刻な人権侵害に関する新たな証拠」として取り上げ「透明な調査」を要求した。
対中制裁の発動に二の足を踏む日本だが、中国の人権侵害の証拠が明らかになった以上、アジアの民主国家として制裁を強化し、独自調査に乗り出すべきだ。
内部資料が明らかにした事実を前に、中国当局が「新疆ウイグル自治区では人々が楽しく暮らしている」といった従来の虚言を弄したところで、誰も信じまい。恥の上塗りはやめて、同自治区における「ジェノサイド」(集団殺害)を認めるべきである。
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2022年5月31日付産経新聞【主張】を転載しています