陸上自衛隊富士総合火力演習で水陸両用車AAV7から降車する水陸機動団
=5月28日、静岡県御殿場市の東富士演習場(春名中撮影)
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岸田文雄政権が、令和4年の経済財政運営の指針「骨太の方針」を閣議決定した。
評価できるのは、「台湾海峡の平和と安定の重要性」に言及し、「国家安全保障の最終的な担保となる防衛力を5年以内に抜本的に強化する」と明記したことだ。
防衛費をめぐっては、北大西洋条約機構(NATO)加盟国が「国内総生産(GDP)比2%以上」の目標達成を急いでいることを盛り込んだ。
岸田首相は5月の日米首脳会談で、「防衛力の抜本的強化」のために「防衛費の相当な増額を確保する決意」を表明した。
骨太の方針はこれを反映したものだ。日本の防衛費の目標値、年限を示さなかったが、「GDP比2%以上」を、5年後と言わず、できるだけ早期に達成すべきである。現行のGDP比1%をわずかに上回る水準のままでは防衛力の抜本強化は不可能だからだ。
政府与党は、防衛力の抜本的強化とそれを裏打ちする防衛費の思い切った増額の重要性を国民に丁寧に説くべきである。
防衛省防衛研究所発行の「東アジア戦略概観2022」によれば、東アジアの日本、中国、韓国、台湾の国防支出の合計に占める日本の防衛費の割合は、平成12年に38%だったのが20年後の令和2年には17%へ低下した。GDP比2%に増やしても平成12年の水準には及ばない程度である。
ロシアはウクライナの防衛力を弱いとみなし、容易に勝てると誤算して、許されざる侵略を始めた。そこから得られる教訓は、防衛力を整えたり、同盟国と協力したりして、十分な抑止力を示すことが平和を保つ上で決定的に重要ということだ。抑止力は平和を追求する外交力も強める。
ドイツなどのNATO加盟国が「2%以上」達成を急ぐのはロシアの脅威が念頭にある。一方、日本にとっての脅威はロシアにとどまらない。中国、北朝鮮にも備える必要がある。日本はNATOよりもはるかに厳しい安全保障環境にあると自覚すべきだ。
抑止が破れて侵略されれば、国民の命が犠牲になり、財産が損なわれる。領土を失うかもしれない。防衛費などの多大な支出に迫られ、GDP比2%どころではなくなる。それを防ぐために、日本は防衛費の思い切った増額に踏み切り、平和を守るときである。
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2022年6月8日付産経新聞【主張】を転載しています