花をつける自民党総裁の岸田文雄首相と高市早苗政調会長(左)
=7月10日午後、東京・永田町の自民党本部(大塚聡彦撮影)
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参院選で自民、公明の与党が改選議席の過半数を確保した。参院全体では改憲勢力が3分の2以上を維持した。
これにより岸田文雄首相は参院でも安定基盤を固めた。首相と与党は民意を踏まえ、公約実現に全力を挙げなくてはならない。
選挙戦終盤に安倍晋三元首相が卑劣なテロで命を奪われた。民主主義への許されざる挑戦を目の当たりにした中で、有権者が投じた一票の重みをかみしめたい。
ここで立ち止まるわけにはいかない。戦後日本の積年の課題に向き合うことは政治の責務だ。
今こそ憲法改正をやり遂げるときである。岸田首相は安倍氏の遺志を継ぎ、不退転の覚悟で実現させなくてはならない。
「防衛費増額」も急務だ
日本の安全保障環境が厳しさを増している。隣国のロシアはウクライナを侵略し、中国は覇権主義的な動きをやめない。北朝鮮は軍事的挑発を続けている。
国の根幹をなす憲法はこの現状に到底対応できない。9条を守りさえすれば平和が実現するという「戦後平和主義」が幻想であることは、ウクライナの惨状をみれば明らかである。
自民は改憲案として、9条への自衛隊明記、大規模災害時の緊急事態条項、参院選の「合区」解消、教育の充実―の4項目を掲げている。自衛隊明記について安倍氏は「戦後レジームからの脱却の中核だ」と語っていた。この認識を共有し、無意味な自衛隊違憲論争に終止符を打つべきである。
気になるのは公明の慎重姿勢だ。公約では「多くの国民は、自衛隊の活動を支持しており、違憲の存在とはみていない。引き続き検討を進める」としただけだ。首相は、自衛隊明記に向けて公明を説得しなければならない。
国家と国民を守り抜くには自衛隊と日米同盟の抑止力を高める必要がある。参院選では防衛費増額に積極的な党が議席を伸ばした。防衛力の増強が急務であることを有権者が理解した表れだ。
自民は公約で防衛費の国内総生産(GDP)比2%以上を念頭に、5年以内に防衛力を抜本強化すると明記した。12月には国家安全保障戦略などを改定し、来年度予算案を決定する。反撃能力導入を決定するとともに、5年後よりも早期にGDP比2%を達成しなければならない。
岸田首相は選挙期間中、北大西洋条約機構(NATO)の首脳会議に出席し、中国を念頭に「ウクライナは明日の東アジアかもしれない」と訴えた。NATO諸国など価値観を共有する国・地域との安保協力を進め、地域の平和と繁栄を守ってもらいたい。
感染拡大の対策万全に
新型コロナウイルスの新規感染者数が再拡大しており、その対策にも万全を期すべきだ。司令塔の役割を担う「内閣感染症危機管理庁」の体制を速やかに整える必要がある。自宅療養者や高齢者施設などへの対応を含めて医療体制を抜本的に強化せねばならない。
併せて、コロナ禍で落ち込んだ経済をいかに立て直すか。その両立も問われよう。
喫緊の課題は、物価高への対応である。エネルギー・食料品などの物価高は今後、さらに幅広い品目に及ぶとみられる。生活必需品の値上がりは低所得層ほど痛みを強いる。物価高に苦しむ人に必要な支援を行うことは重要だ。実効性を見極めた上で物価高対策を実施しなければならない。
野党が打ち出した消費税減税・撤廃の訴えは大きなうねりにならなかった。財源も確保せず大盤振る舞いを約束しても支持は得られまい。むしろ有権者はバラマキ型政策に厳しい目を向けているのではないか。今後の経済運営でも銘記しておきたいことである。
「新しい資本主義」の具体化も課題だ。岸田政権は基本的にアベノミクスを踏襲している。安倍氏の功績は雇用環境や企業収益などを好転させたことだが、労働生産性の改善や賃上げなど積み残された課題もある。新しい資本主義でアベノミクスの足らざる部分をどう解消するのか。納得できる施策を示して実行してほしい。
コロナ禍や物価高で際立った所得格差の是正も急務である。首相は分配戦略についてあまり言及しなくなったが、本腰を入れるつもりはあるのか。所得の再分配機能を強める税制改革などの道筋をもっと明確にすべきである。
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2022年7月11日付産経新聞【主張】を転載しています