祭り参加する子供たち
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奈良県天川村。近畿の屋根といわれる大峰山脈と、その山々を源とした清流を持つ。寒冷なうえ、耕地も少ない。だが、厳しいが故に人々が集う理由が生まれることもある。その稀有(けう)な例が、この村にある。
理由は大峰山にある。ここは、日本古来の山岳信仰、修験道の拠点なのだ。この村は修験者の山伏と修行を支える人々が織りなした歴史の積み重ねだ。
8月3日、大峰山(山上ケ岳)の登り口にあたる洞川(どろがわ)温泉郷を訪れた。真夏だが標高が高く、日陰ならひんやりとした空気が漂う。夕暮れに道を歩むと、どこからか法螺(ほら)貝が吹き鳴らされる低音が響いてきた。
修験道の開祖とされ、飛鳥時代(7世紀ごろ)に大峰の山々を開いた伝承のある役行者(えんのぎょうじゃ)(役小角(えんのおづの))をたたえる「行者まつり」だ。役行者が伊豆への配流から大峰に戻った際の歓迎の様子を再現した「鬼踊り行列」も3年ぶりに行われた。
ちょうちんに明かりが入った。柔らかな光に覆われた温泉街を練り歩く山伏たち。法螺貝の音色、それに続くにぎやかなお囃子(はやし)。通り沿いの旅館は広い縁側を開放し、宿泊客や村人たちはうちわを使う。時間がゆっくりと流れる。
創業500年の旅館「花屋徳兵衛」の十七代目当主、花谷芳春さん(69)は「子供の頃からこの景色は変わらない」という。今は一般の観光客が少なくないが、ずっと「講」と呼ばれる修験者の団体を受け入れてきた。各旅館の広い縁側は、その頃の名残だ。かつて山伏たちは縁側に並んで座り、地下足袋を脱いだという。
「修験道とは山岳信仰です」と洞川集落にある龍泉寺の岡田悦雄住職(51)は話してくれた。
寺の境内に湧き出る水で修験者は身を清める。「私たちの生活に欠かせない水は山で長い時間をかけて育まれたものです。それを私たちは使わせてもらう。だから山に感謝を伝える。それが修験道です」
山と信仰の村。村は「天の国、木の国、川の国」とアピールする。木々に包まれた峻厳(しゅんげん)とした深い山は命の川を生み、感謝の信仰が生まれる。その関係は今も変わらないようにみえた。
文と写真:鳥越瑞絵(産経新聞写真報道局)