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英国のトラス首相が辞任を表明した。
看板の大型減税策が市場の混乱を招き、経済手腕への不信から退陣に追い込まれた。9月の就任からわずか1カ月半という異例の退陣劇だ。
与党保守党は後継選びに入っている。緊迫する国際情勢に的確に対応していくためにも政治空白は許されない。
英国は、先進7カ国(G7)や北大西洋条約機構(NATO)の有力メンバーで、国連安全保障理事会の常任理事国でもある。
英国には速やかに国内政治の安定を取り戻し、世界の平和に責任を持つ西側主要国としての務めを果たしてもらいたい。
トラス氏は会見で、辞任の理由について「(経済低迷を打開するという)保守党から託された任務を果たすことができない」からだと語った。
トラス政権は、物価高騰のあおりで減速する景気を立て直すために5年間で約450億ポンド(約7兆5千億円)に上る減税策を発表した。だが、財源が不透明だったため、市場では財政悪化への懸念が広がり、通貨ポンドと英国債価格が急落するなどした。
英国には、首相が交代してもロシアのウクライナ侵略を認めない姿勢を堅持してもらいたい。ロシアの戦争犯罪を許さず、抗戦するウクライナ政府と国民を支え続ける必要がある。
岸田文雄首相は21日、トラス氏の辞任表明を受け、「英国は基本的な価値を共有するグローバルな戦略的パートナーだ」と述べ、英国と緊密な関係を維持する考えを示した。外交安全保障、経済での日英連携は欠かせない。
英国は太平洋の島を領土に持つ太平洋国家の一員でもある。「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた連携を両国関係の基本としたい。
トラス政権はジョンソン前政権と同様、国際社会で覇権を強め、台頭を続ける中国を国家安全保障に対する「重大な脅威」とみなしていた。英国は昨年、空母打撃群を日本に派遣するなど、インド太平洋地域でプレゼンスを高めてきた。地域の安定に向けて新政権にも路線の継続を望む。
英国は、日本が主導する環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への加盟を交渉中である。仲間に迎え入れるために日本はさらに後押しをしたい。
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2022年10月22日付産経新聞【主張】を転載しています