~~
幅3メートル余、長さ40メートルの路地で150人以上が圧死し、130人以上が負傷した。亡くなったのはほとんどが若者で日本人2人も犠牲となった。
この凄惨(せいさん)で痛ましい事故を、防ぐことはできなかったか。
韓国・ソウルの繁華街の梨泰院(イテウォン)で、ハロウィンを前に押し寄せた大勢の人が折り重なるように倒れた。現場は狭い坂道で、上る人、下る人が路地中央で押し合う形となり、逃げ場を失った。密集した人々が自立不能となり「群衆雪崩」が起きたものとみられる。
韓悳洙首相は「原因を徹底調査し、必要な制度改善に最善を尽くす」と強調した。だが、すでに明らかな一番の問題は、自治体や警察による人流の制限、誘導などの措置がみられなかったことだ。事故の2時間前から現場の路地では身動きが取れなくなっていたとの証言もあり、遅くともこの時点で人の流れを制御すべきだった。
同様の事故は世界の各地で起きている。国内でも昭和31年1月、新潟県弥彦村の神社で餅まきの神事に約3万人が殺到し、124人が死亡した。平成13年7月には、兵庫県明石市の歩道橋上で11人が圧死、247人が負傷した。
花火大会会場へ向かう客と帰宅する客が歩道橋上で押し合う形で「群衆雪崩」が発生したこの事故では、明石市、兵庫県警、警備会社の担当者が業務上過失致死傷罪の有罪判決が確定した。
明石市の事故調査委員会がまとめた報告書は再発防止策として、滞留箇所(ボトルネック)の解消、来場者の制限や分断、主催者側と警察、警備会社による事前対応の組織的実施の重要性などを提言している。
ソウルの事故のような主催者不在の雑踏警備でも、基本は同じである。多数の来場が予測される場合には自治体と警察が綿密に事前対応し、人流をコントロールするための措置を詳細に決めておかなければならなかった。
警察庁はソウルの事故を受けて全国の警察に対し、地元自治体と連携してハロウィンの事故防止を図るよう指示した。
警視庁は、軽妙な口調で群衆に語り掛ける「DJポリス」を導入するなどの工夫で、人流の誘導に実績をあげている。ただし人の流れには予測不能なところがある。入場制限や移動経路の設定といった事前準備こそが最も重要だ。
◇
2022年11月1日付産経新聞【主張】を転載しています