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歴史的な円安を背景に製造業の国内回帰が進む中、千葉県にある〝工場〟が作られていたことが警視庁の捜査で判明した。外国人の在留カードや日本の運転免許証、健康保険証などを偽造する中国人グループを警視庁が摘発。中国にある本拠地からの指示に基づいて千葉県で偽造品を量産し、約2万件もの注文を請け負っていた。
国内最大規模の密造組織
パソコン3台、プリンター2台、プラスチック製の板約3千枚…。9月初頭、千葉県旭市の農村部に位置する民家から、警視庁の捜査員が次々と運び出した。
実はこの民家は、日本に中長期在留する外国人へ発行される在留カードや日本の運転免許証、健康保険証などの密造が行われている〝工場〟だった。
在留カードを偽造したなどとして警視庁など6都県警の合同捜査本部は9月、入管難民法違反の疑いで、いずれも中国籍の沈志強容疑者(30)、温国強容疑者(32)ら男女6人を逮捕した。
捜査幹部は「国内最大規模の密造組織。過去にもこれだけの組織的犯行はない」と話す。
グループは、ベトナムやインドネシアなどから日本に留学している外国人に直接売るケースもあったが、ほとんどはそうした留学生などに偽造身分証を売りさばくブローカーに売っていたという。中国の交流サイト「微信(ウィーチャット)」の掲示板で営業していたほか、ブローカーの「口コミ」から注文も受けていたという。
偽造ビジネス
日本に留学する外国人を相手にしていたが、注文の管理は中国にある本拠地で行われており、実態は解明されていない。日本では〝下請け〟として千葉県にある沈、温両容疑者の自宅で偽造作業が行われていた。
在留カードなどの偽造ビジネスは、日本人よりも、売りさばくルートを持つ外国人が手を染めることが多いという。逮捕された6人の中にいた日本人の男1人は出来栄えについてのアドバイスなどをしていたとみられる。
偽造のノウハウは口頭で共有し、在留カードは1枚1500~7千円程度で販売。捜査本部では昨年8月から今年9月初頭までに約2万件の注文を受け、約1億円を売り上げていたとみている。売られた偽造在留カードは複数の都県で、虚偽の在留カードで就業したり、携帯電話を購入したりするなど悪用されていたことが確認された。
運転免許証なども偽造
グループは在留カード以外も偽造していた。家宅捜索では、いずれも偽造された日本の運転免許証7枚や健康保険証19枚、マイナンバーの通知カード5枚も見つかった。免許証は確度の高い身分証明書のため、仕事などの範囲も広がるというメリットがある。捜査本部は運転免許証や健康保険証の悪用についても捜査を進めている。
こうした偽造を防止するため、出入国在留管理庁は、在留カードに埋め込まれたICチップからカード情報を確認できるアプリ「在留カード等読取アプリケーション」を公開。これにより公的機関に照会せずとも、ICチップのない偽造品であるかを確かめられる。同庁は所持者本人の同意を得て使用するように求めている。
ただ、いまひとつ浸透はしていないといい、摘発による取り締まりが重要となってくる。捜査幹部は「不法滞在はさまざまな犯罪の温床になる。ひとつひとつ取り締まっていきたい」と強調した。
筆者:内田優作(産経新聞)