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映画を10分程度に短く編集して動画投稿サイトに無断で公開する「ファスト映画」をめぐり、厳しい判決が出た。
映画会社などが、こうした動画の投稿を繰り返していた20代の男女2人を相手取った訴訟で、東京地裁は著作権侵害を認め、請求通り5億円の損害賠償を命じた。
著作権の侵害に強く警鐘を鳴らす判決である。個人に対しても重いペナルティーが科せられると肝に銘じるべきだ。
判決によると、男女2人は令和2年1月から10月までの間、「シン・ゴジラ」など映画54作品のファスト映画を無断で作成し、動画投稿サイト「ユーチューブ」で公開していた。再生回数は計1千万回に上り、再生回数に応じて得られる広告の収益で約700万円を得ていたという。
東宝など著作権を持つ映画、映像大手13社が提訴していた。請求額は、ユーチューブ上で正規に映画を視聴する場合の1作品400~500円程度のレンタル料をもとに、被害額は1作品200円、総額約20億円に上るとし、その一部5億円を求めた。東京地裁はこの主張を全面的に認めた。
被告となった男女は著作権法違反容疑で昨年6月に宮城県警に逮捕され、有罪判決が確定している。その仙台地裁判決では「映画の収益構造を破壊し、映画文化の発展を阻害しかねない」と指摘するとともに、判決言い渡し後、裁判長は「あなた方が思っている以上に重い罪だ」と説諭した。
著作権侵害行為には刑事、民事両面で重い責任が問われることを忘れてはならない。
海賊版対策などに取り組む一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構によると、ファスト映画の推定被害額は新型コロナウイルス禍の巣ごもり需要もあり、昨年6月時点で950億円超に上る。
先の宮城県警の摘発を契機に、ファスト映画の投稿は急減したというが、漫画の海賊版サイトなどを含め、著作権侵害による被害は甚大であることを認識したい。
一方で、漫画海賊版サイトに広告を提供していた海外の広告会社に対し、日本の出版社が広告提供の中止を求めるなど、著作権を守る取り組みも強まっている。
著作権侵害は次の創作への糧を奪い、文化の芽を摘みかねない。創作を支える著作権の意味を銘記することも必要である。
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2022年11月21日付産経新聞【主張】を転載しています