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横浜市が臨海部にある山下ふ頭の再開発に向け再び検討を本格化させている。昨夏に市長に就任した山中竹春氏のもとでカジノを含む統合型リゾート(IR)の誘致計画を撤回後、再開発計画案を募って10件が寄せられた。令和8年の事業着手を目指しているが、IR誘致で推進派と反対派が激しく対立した経緯もあり、市民の意見を重ねて募集する慎重姿勢をみせている。
「今回、山下ふ頭に関する熱い思いを感じることができた」。山中市長は8月下旬、再開発計画策定に向けて半年あまりかけ募集していた事業者の計画案や市民から寄せられた意見の結果を公表し、こう強調した。
計画案は提案者の法人・グループが現在進行形で具体的な検討などを進めており、市による概要や完成予想図の公表の承諾を得られたのは10件中、5件だった。企業・大学などの「イノベーション施設」を中心としたA案のほか、大規模集客施設を中心としたB、C案、緑を中心としたD、E案が示された。市が明らかにしている事業者提案の投資見込み額は約1千億~8千億円、年間延べ訪問者数は約530万~4500万人となっている。
約3700件寄せられた市民の意見では4割超が再開発へのイメージとして「海・みなと」「国際性」「にぎわい・楽しさ」と回答。ふさわしい導入機能としては「エンターテインメント」「水辺・親水」が多かった。
市長選の争点に
山下ふ頭は昭和の高度成長期に貿易港として発展し、その後、他のふ頭の整備により一定の役割を終えた。このため、市は新たに人や投資を呼び込み、観光や交流の拠点として世界から注目を集めるエリアにしたい狙いがあり、再開発のあり方が大きな課題となってきた。
林文子・前市長のもとで平成26年にIR検討プロジェクトを設置。その後の国の法整備などに合わせて令和元年8月にIR誘致を表明したものの、港湾事業者が加盟する団体などからカジノ反対の声が噴出した。3年8月の市長選ではIR誘致の是非を争点に、推進派の林氏と、IR誘致撤回を公約とする山中氏らが舌戦を繰り広げ、山中氏の当選で一転、白紙となった。
市が激しい対立を乗り越える一手を打つために重要視するのは、再開発計画案とあわせて募った市民の意見だ。今後、追加で市民の意見と計画案を募る方針で「公表した市民の意見を踏まえながら、提案してもらえるとありがたい」(市山下ふ頭再開発調整課担当者)。既存案の修正なども想定しており、幅広い支持を得る計画に収斂していくことを期待する。
採算性や役割分担が課題
ただ、事業者の提案レベルで投資額や訪問者数に大きな開きがあり、事業採算性の精査などが課題になることが想定される。さらに周辺アクセス強化や整備に関する官民の役割分担の協議を求める声などが事業者から上がる。
地元経済界との連携も不可欠だ。市を代表する経済団体、横浜商工会議所はかつてIR誘致を支持・推進する立場からIRのもたらす経済効果やその地域振興について研究しており、商工会議所は市に対して「IRに匹敵する大型プロジェクトによる新たな産業振興が必要」との要望書を提出している。横浜商工会議所の川本守彦副会頭(川本工業社長)は「会議所としても動向を注視しており、横浜発展のために対応していきたい」と話している。
■山下ふ頭 昭和28年から埋立を開始し、38年に貿易のためのふ頭として完成。面積約47ヘクタール。高度成長期の横浜港を支える主力ふ頭として重要な役割を果たした。上屋や倉庫が数多く立地し、近年では船舶の大型化やコンテナ船の普及に合わせて整備された本牧ふ頭などの主要ふ頭を補完する物流機能を担う。大部分が横浜市の所有地で、複数の港湾業者などに敷地を貸している。
<記者の独り言> 5月に横浜赴任となり、新型コロナウイルス禍の平日でも山下公園、中華街、みなとみらい地区などで人が行き交う光景を見て横浜の集客力を実感している。マリンタワー展望台から見ると、その広さや中心部からの近さがわかる。デベロッパー、ゼネコン、総合商社など事業者がどんな提案をするか、新たなまちづくりを巡る〝争奪戦〟を注目している。
筆者:大島直之(産経新聞)