~~
日本初の月面着陸を目指していた超小型探査機「オモテナシ」についてJAXA(宇宙航空研究開発機構)は、月面着陸への挑戦を断念したと発表した。
オモテナシは、人類が再び月を目指す「アルテミス計画」第1弾の米大型ロケットで11月16日に打ち上げられた。
ロケットから分離後、太陽電池がある片面が太陽の反対方向を向き、地上からの通信で姿勢や軌道の修正ができなくなり、月上空への到達時間までに回復しなかった。JAXAは月面着陸以外の技術実証のため、引き続き復旧を目指すという。
世界最小の探査機による月面着陸への日本の挑戦は、「助走」の段階で失敗に終わった。
しかし、JAXAには度重なる失敗のなかで大きな成果を挙げた小惑星探査機「はやぶさ」の経験を「はやぶさ2」の成功につなげた実績がある。
オモテナシの失敗も、新たな挑戦につないでもらいたい。旧ソ連、米国、中国に次ぐ4カ国目の月面着陸に向けて、日本の挑戦はまだ続いている。
11月28日には、宇宙ベンチャーのアイスペース(東京)が開発した月着陸機の米スペースX社ロケットによる打ち上げが予定されている。来年4月末ごろ、民間による世界初の月面着陸を目指す。
またJAXAは、来年度に月探査機「SLIM(スリム)」を打ち上げる予定だ。
小惑星に比べて重力が大きい月で、精密な着陸技術を実証することが最大の目的で、得られたデータは米主導の「アルテミス計画」にも利用される。
別の計画との兼ね合いで「スリム」の打ち上げは再三延期されたが、月探査、宇宙開発における日本の存在感を高めるためにも重要なプロジェクトである。
官と民がそれぞれ月面着陸に挑むことは、日本の宇宙開発の裾野を広げることにもなる。
世界の中での日本の科学技術の位置づけは、深刻な低落傾向にある。宇宙開発は最先端の科学技術が結集する分野である。
月面着陸において世界で4番目の地位を確立し、月や火星の有人探査で「必要とされる国」となることは、日本の科学技術全体の再生を牽引(けんいん)する力になり得る。目先の費用対効果にとらわれ過ぎず、月面着陸への挑戦を支えたい。
◇
2022年11月24日付産経新聞【主張】を転載しています