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今年のノーベル平和賞の受賞が決まったウクライナの人権団体「市民自由センター」(CCL)のオレクサンドラ・マトビチュク代表(39)が首都キーウ(キエフ)市内で産経新聞のインタビューに応じた。同氏はロシア軍が、ウクライナ侵略で市民らの殺害や電力施設の攻撃を続ける背景には、プーチン露大統領らが民間人への残虐行為を「戦争遂行の手段」として活用し、奨励している実態があると指摘し、ロシアに変化をもたらすには「ウクライナの勝利」が不可欠だと訴えた。
戦争犯罪を記録
マトビチュク氏は、CCLが露軍の戦争犯罪を調査する過程で「ウクライナの民間人に対するレイプや殺人、誘拐、拷問などの行為を記録した」と述べた。
また、露軍が民間人や電力施設などの生活インフラに対する攻撃を繰り返すのは、ロシアが残虐行為を「戦争の手段として利用しているからだ」と語った。プーチン氏が、民間人の虐殺が発覚したキーウ近郊にいた露軍部隊を表彰した事実にも触れ、「最高指導者が、民間人に何を行ってもよいのだと実質的に表明したものだ」と強調した。
さらに、ロシアはチェチェン紛争やシリア内戦など過去の多くの戦争で同様の行為を繰り返してきたが、「何の処罰も受けなかったせいで、露国内では民間人への残虐行為を罰しない『文化』が根付いてしまった」との認識を示した。
ロシアが2014年にウクライナ南部クリミア半島を併合した際、「国際社会の対露制裁が非常に弱かったことも今回の侵略の呼び水になった」とした。
「共通の悪」に連帯
一方、露国内で反戦運動が本格化しないのは「事実として、国民の大半が戦争を支持したからだ」と指摘した。プーチン氏は「ロシア帝国の復興」を望む国民の欲求を満たそうとしているに過ぎないとした上で、露国民が、そのような帝国主義的な考えを改める機会は「ウクライナがロシアを打ち負かしたときにのみ訪れるだろう」と語った。
ウクライナでは、CCLとともにロシアの人権団体などがノーベル平和賞を共同受賞することを疑問視する声が出ている。マトビチュク氏は「賞は国に対してではなく、『共通の悪』に連帯して立ち向かう人々に与えられたものだ」として、問題はないとの考えを強調。「今回の受賞決定は、私たちの声を人々に伝えられる貴重な機会を提供してくれた」と述べて謝意を表明した。
筆者:黒川信雄(産経新聞)
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■市民自由センター(The Center for Civil Liberties、CCL)
2007年に創設されたウクライナの人権団体。2月にロシアがウクライナ侵略を開始して以降は露軍による戦争犯罪の記録を続けている。今年のノーベル平和賞はCCLと、解散させられた露人権団体「メモリアル」、ベラルーシの人権活動家による共同受賞が決まった。