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岸田文雄政権が、「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」の安保3文書を閣議決定した。
反撃能力保有や、5年間の防衛費総額を約43兆円とし、最終の令和9年度には防衛費と補完する関連予算を合わせ、今の国内総生産(GDP)比2%にすることが決まった。相手国の軍事的「能力」に備える防衛力整備という、現実路線への転換も明記した。
平和を守る抑止力を格段に向上させる歴史的な決定を歓迎したい。政府の最大の責務は国の独立と国民の生命を守り抜くことだ。岸田首相が決断し、与党と協力して、安倍晋三政権でさえ実現できなかった防衛力の抜本的強化策を決めた点を高く評価する。
行動した首相評価する
岸田首相は強化策の実行へ指導力を発揮してもらいたい。増強される自衛隊と米軍の共同行動深化へ日米間の調整も急ぐべきだ。
自由と民主主義、法の支配、人権、平和を尊び、世界第3位の経済を擁するのが日本だ。今回の決定は、地域と世界の平和に寄与する意義もある。
日本は中国、北朝鮮、ロシアという専制国家に囲まれている。国家安保戦略は中国の動向を国際秩序への「最大の戦略的な挑戦」とし、北朝鮮を「重大かつ差し迫った脅威」、ロシアを日本周辺での「安保上の強い懸念」とした。
国家防衛戦略をめぐっては、今年8月の日本の排他的経済水域(EEZ)への中国軍ミサイル着弾について、「わが国および地域住民に脅威と受け止められた」とした当初案から、「わが国」部分が削除された。公明党が外交的配慮を求めたからというが遺憾だ。公明党が反撃能力に同意した点は妥当だが対中姿勢に問題がある。中国共産党政権よりも日本と国民に配慮したらどうか。
国家安保戦略は、「わが国は戦後最も厳しく複雑な安保環境に直面」とし、「(ウクライナ侵略と)同様の深刻な事態が、将来、インド太平洋地域、とりわけ東アジアで発生する可能性は排除されない」と危機感を示した。中国の軍事活動活発化により、「台湾海峡の平和と安定」について、国際社会全体で「急速に懸念が高まっている」とも指摘した。
東西冷戦期に形作られた防衛政策を漫然と続けては平和と国民の命を守れない時代になった。そこで国家安保戦略は、専守防衛などを念頭に戦後の安保関連の基本原則を維持しつつも、「安保政策を実践面から大きく転換する」施策を打ち出した。もちろん、日米同盟重視は少しも変わらない。
中露、北朝鮮のミサイル性能の向上などは軍事情勢を悪化させた。ミサイル防衛は必要だが、それだけで国民を守れない。長距離ミサイルなどで相手国領域内の拠点を攻撃する反撃能力を持つことが抑止に欠かせない。これは昭和31年の政府見解の範囲内で、「専守防衛違反」の批判は当たらない。反撃力反対論は国民を守らず、侵略軍を利する謬(びゅう)論だ。
国民は改革の後押しを
中露、北朝鮮が核戦力強化を図っているのに、日本国民を核の脅威から守る核抑止態勢を充実させる具体策が示されなかったのは問題で、検討を急ぐべきである。
国会の議決を経て防衛省自衛隊は予算の執行段階へ入る。現有部隊・装備の十全な能力発揮へ、弾薬、燃料、修理部品の確保による継戦能力整備や、司令部地下化など施設の抗堪(こうたん)性強化を急ぐべきだ。反撃能力保有や「航空宇宙自衛隊」への改称が象徴するように大規模な改革が続く。何が正解か分からないのが、日進月歩の軍事の世界である。試行錯誤を恐れずに取り組んでほしい。
サイバー安保や防衛上の研究開発、インフラ整備などを「補完する予算」に数え、総合的な防衛体制を強化することになった。他府省や自治体、企業、学術界、国民の協力や後押しは重要だ。生命を賭して戦ってくれるのが自衛官だ。損害を極力減らし、任務を遂行してもらう準備を支えたい。
残念なのが、自民党内からの反発などで「防衛増税」の実施時期が確定しなかった点だ。周辺国の政府や軍が日本の防衛意志は弱いとみなすことを恐れる。令和10年度以降も相当額の防衛費が必要で安定財源の手当ては重要だ。自民党議員は大局観を持つべきで、抑止力を高める防衛費を確保する責任を忘れてはならない。
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2022年12月17日付産経新聞【主張】を転載しています