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トヨタ自動車の経営を牽引(けんいん)してきた豊田章男社長(66)が4月に会長に就任し、執行役員の佐藤恒治氏(53)が社長に昇格する。自動車業界は自動運転や電動化など「100年に1度の変革期」を迎えている。経営陣の世代交代を図り、トヨタが目指すモビリティー(乗り物)カンパニーへの変革を推進する。豊田氏は自動車業界で働く550万人の〝応援団〟としての活動に力を入れる。
爆音の中「ちょっとお願いが…」
執行役員の佐藤氏が、豊田社長から重責の打診を受けたのは、昨年12月にタイで開催されたレースのサーキット場だった。「ちょっとお願いがあるんだけど、社長をやってくれない」と言われ、「本当に冗談だと思った」。エンジンの爆音で周囲の他の人間には聞こえない。相手を緊張させない豊田氏の心遣いと、情報管理術だった。
根っからのエンジニアで「笑顔になる車を造るのが大好き」が口癖。カローラの部品開発に携わり、トヨタの高級車ブランド「レクサス」部門のトップなどを歴任。水素を燃やして走るエンジン車の開発も担う。豊田氏とともに開発車に乗る機会も多かったという。
モビリティーカンパニーへ変革
「私は少し古い人間。新しい章に入るため一歩引くことが今必要だと思う」。豊田氏は26日、自社のオンライン配信で、退任理由について、こう語った。
自動車産業はデジタルとの融合による「つながる車」の普及や電動化が進む。今後はソフトウエアで機能を更新し、さまざまなサービスを提供する時代になるとみられている。
豊田氏は「私は車屋の域を超えられない。それが私の限界だ」とも述べ、新チームにモビリティーカンパニーへの変革を託した。
「正解の見えない時代」
後を託された佐藤氏は現在を「正解の見えない時代」と表現した上で、「まずはモビリティーを考えていくことが新体制の大きなテーマだ」と語った。
さらに「より多くの価値を車に付け加えていくためにはソフトとハードの両面で、まだまだやることがある」との認識を示した。
世界では電気自動車(EV)シフトが加速し、米テスラなど海外勢が幅をきかせている。トヨタは商品の魅力の原点でもある車づくりを磨きながら、若い世代の発想を取り入れ、変革を推進したい考えだ。
豊田氏、異業種との交流基点に
一方、4月から会長となる豊田氏は新チームを見守りながら、自動車産業の競争力強化に取り組む。布石は打ってきた。昨年6月には経団連にモビリティ委員会が設置され、十倉雅和会長の要請を受けて委員長に就任した。
昨年11月には首相官邸で開かれた今後の自動車産業の在り方を議論する会合で岸田文雄首相と協議。脱炭素化に向けた取り組みを官民で進める方針で一致し、自動車業界で働く人の賃上げも議論した。今後、豊田氏は自動車産業の競争力を強化するため、異業種との交流基点となり、仲間づくりに注力することになる。
筆者:黄金崎元(産経新聞)