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Shein's pop-up store in Shinsaibashi, Osaka in October 2022 (© Kyodo).

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驚異的な安さと若者たちの支持で快進撃を続ける中国のファストファッションブランド「シーイン(SHEIN)」。だがその背景には、生産現場の過酷な労働環境があり、人権弾圧が問題となっている新疆ウイグル自治区産の綿が使われていると指摘されるなど、見逃せない問題もある。「安くてかわいい」に飛びつく―、そんな消費行動を見直したい。

 

 

Z世代に支持

 

昨年10月22日、大阪・心斎橋にシーインの期間限定店舗がオープンし、初日と翌日の2日間で約1万人が来店した。展示商品は約800点。167円のピアスや2621円のワンピースなど、その安さに目を見張った。

 

ただ、同店舗はあくまで「試着ができるショールーム」で、購入して持ち帰ることはできない。翌11月にオープンした東京の常設店も同様で、商品のQRコードを読み取りオンライン決済すれば、後日自宅に届けられる。心斎橋の店舗には華やかなフォトブースが何カ所も設置されていた。来場者に、ここで撮影した写真をSNSで拡散してもらうためだ。

 

Shein
「SHEIN(シーイン)」の店舗で商品に触れる来店客=2022年10月、大阪・心斎橋(共同)

 

シーインの公式サイトによると、同社は2012年設立のファッション企業で、ここ10年で欧米を中心に約150カ国・地域で販売している。店舗販売はなくオンライン販売のみだ。米歌手ケイティ・ペリーをはじめインフルエンサーらと組んだSNSによる宣伝法が功を奏し、Z世代以降の若者の支持を得た。

 

米ブルームバーグの昨年4月の報道では、同企業の評価額は1000億ドル(約13兆2千億円)に達したとあり、ライバル企業のインディテックス(ザラ)とヘネス・アンド・マウリッツ(H&M)2社の合計を超えるという。

 

 

激安の背景

 

店舗を持たず、問屋も介さず中国の工場から世界各地の購入者へ直接発送することで固定費を大幅に抑えることができる。ほかにも、工場の余剰在庫や残反を安価で買い取り・低価格で販売、中国の輸出関税と米国の輸入税免除の活用など、「知らなきゃいけないアパレルの話」(河合拓著、ダイヤモンド社)で同社のビジネスモデルが解説されていた。

 

だが圧倒的な低コストによる〝激安〟の裏側には闇もある。昨年10月、英テレビ局「チャンネル4」は同社の工場従業員の過酷な労働環境を報じた。ある工場では、服1着あたりの手間賃は4セント(約6円)。1日約18時間も働き、休日は月に1回という過酷な労働環境だ。同社は翌月、共同創業者兼COO名で「(昨今の報道を受け)調査を開始」「報道は事実と異なる」と声明を出している。

 

また、翌11月には米ブルームバーグが「シーインが米国に輸出した衣料品に新疆ウイグル自治区で生産された綿が使われている」と報道。中国当局による人権弾圧が指摘され、米国では、同自治区産の綿やトマト製品、太陽光パネルの部品などの輸入を禁じる「ウイグル強制労働防止法」が施行されている。

 

solar panels
高い塀や鉄条網、監視塔を備えた施設。中国語で勾留施設を意味する看板が掲げられていた=2021年5月、中国新疆ウイグル自治区アルトゥシュ(共同)

 

情報管理の大切さ

 

「人権問題に関わる製品の購入という倫理的な側面に加えて、データ管理の側面にも目を向ける必要があるだろう」。元外交官で、皇學館大准教授(国際政治専門)の村上政俊氏はこう指摘する。

 

河野太郎消費者担当相が所管するデジタル庁が中国系動画投稿アプリ「ティックトック」を広報活動に利用し、党内外から批判を受けたことは記憶に新しい。米国では、中国製の防犯カメラはもちろん最近ではティックトックの利用を規制する動きもあり、村上氏は「米国で制裁対象となっている中国企業が、無防備な日本市場へ進出している」と語る。

 

同時に、「一般的にアプリのダウンロードの際には、スパイウエアによる情報流出リスクにも気を付ける必要がある」と村上氏は警鐘を鳴らす。巷には数多のアプリがあるが、安易なダウンロードは避けたい。法規制も必要だが、消費者自身が問題意識を持つことはできる。「『データは21世紀の石油』といわれており、中国はビッグデータの覇権を狙っている。情報収集が目的かもしれないとの警戒心も必要だろう」(村上氏)。消費行動にも倫理観と危機管理意識を持つべきだと自戒した。

 

筆者:杉山みどり(産経新聞大阪正論室)

 

 

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