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茨城県水戸の偕楽園では、穏やかな春の陽気と紅、白、ピンクの梅に誘われて大勢の来園者でにぎわっていた。以前寄稿した記事でも触れたとおり、水戸梅まつりを華やかに彩る和装の「梅大使」も梅林で客を引きつけ、写真撮影に応じていた。
味わいの深いご当地「ゆるキャラ」
水戸を代表するご当地ゆるキャラ、みとちゃんも梅まつりの会場にいた。みとちゃんは、日本各地を代表し、PRするために作られた数多くの「ゆるキャラ」の一人で、日本語のこの表現は「緩い」と英語のcharacterを組み合わせたものである。みとちゃんの頭は、地域の特産である納豆を包む藁の束の形をしている。和食が好きであっても納豆に関しては好みが分かれる。朝食にご飯といっしょに好んで食べる人もいれば、粘り気のある食感と独特のにおいが苦手な人もいる。それでも、水戸市内では店頭や市バスの車体など各所でみとちゃんをよく見かける。
歴史の息吹
園内では、水戸藩主徳川光圀(1628~1701) が助さん、格さんとともに来園者との写真撮影のために江戸時代から再び出現した。「水戸黄門」、「黄門さま」と呼ばれることが多い光圀の物語は後世に脚色され、隠居後身分を隠して諸国を漫遊したと伝えられている。実際にそのような旅をした記録はないようだが、物語ではいつも悪党と遭遇したり役人・商人の不正を暴くことになるいわば民衆の英雄である。ドラマの佳境では、徳川の三つ葉葵の紋所の入った印籠を見せ、身分を明かして皆を驚かせ、悪政を糾す。また、道中で出会った弱者や善良な者を助け、励ましたのち、さらに旅を続ける。このドラマはあまりにもよく知られ、水戸を訪れたことがなくても黄門さまの姿は分かるので、ご当地ゆるキャラの「みとちゃん」も黄門さまのような衣装を纏っている。
夜も圧巻
梅まつりの期間中の偕楽園は、夜間ライトアップされ、音と光の演出も行われた。夜空に浮かぶ梅も、梅の花をかたどって庭園に置かれていた多くの灯明も幻想的な光景だった。会場では地元の郷土芸能グループ「和奏(わかな)」による和太鼓演奏も行われた。実はこのグループは、2020年の私の記事にも一度登場している。コロナ禍の制約で人がイベントに集まることができなかった当時、水戸の近くの笠間市で地元の伝統を守るために祭りをオンラインで開催したあの「賢いキツネたち」である。「笠間きつねの祭典」は、私と茨城県との最初の接点の一つだったが、それ以来ずっとキツネに扮していた彼らの正体を知りたい、また連絡をとりたいと関係者に懇願し続け、今回の梅まつりでようやく初めて対面で会うことができた。
彼方に思いを馳せる
梅まつりの夜は国際色も少しあった。会場に居合わせた県内東海村在住のインド人と話したが、灯明に彩られた偕楽園は、彼らにとってまるでヒンズー教の最大の祭りの一つディワーリのようであったにちがいない。雑踏の中からタイ語も聞こえてきた。私はタイの最大の祭りの一つ、ロイクラトンの時期にタイを訪れ、夜の川面を流れる花籠や灯明、また随所でライトアップされた仏教寺院や伝統舞踊を見たことがあるが、暗闇の中に光を放つ灯明を見ていると、あちらの美しい伝統とにぎわいと今回の夜祭は確かにイメージが重なって見えた。
筆者:栗山薫(ジャーナリスト)
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「水戸の梅まつり」は2月11日~3月19日、茨城県水戸市の偕楽園・弘道館で開催。様々な品種の梅があるため、「早咲き」「中咲き」「遅咲き」と長期間にわたり観梅を楽しむことができる。