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一体どんな発言があったのか、事実はどうなのか。世界保健機関(WHO)は、幹部の解任という重い処分について、説明責任を十分に果たさなくてはならない。
WHOが葛西健・西太平洋地域事務局長の解任を発表した。葛西氏は職員らへの人種差別的な発言があったとして、内部告発されていた。
だが、WHOは「不適切な行為が見つかった」とするだけで、詳細な解任理由を明らかにしていない。一方の葛西氏は、差別的な発言をしたことを否定している。
西太平洋地域事務局は、世界に6カ所あるWHOの地域事務局の一つで、日本や中国、オーストラリアなどを管轄する。
葛西氏は2018年に地域委員会の選挙で選ばれ、アジア太平洋地域で感染症対策や公衆衛生向上に携わってきた。
葛西氏の処遇を決める地域委員会の投票では解任賛成が13票、反対が11票、棄権が1票とほぼ拮抗(きっこう)した。投票した半数近くが葛西氏の留任を否定しなかった。WHOの今の対応では、日本をはじめ関係国の納得は到底得られまい。
松野博一官房長官は会見で「調査や事実認定は公正公平に行われる必要があると主張してきた」と述べた。葛西氏を国際機関に送り出した日本政府には、葛西氏の権利や主張が、不当に阻止された事実はないかをWHO側に厳正に質(ただ)さねばならない。
内部告発は米メディアが昨年1月に報じた。それによると、葛西氏は職員に人種差別的な発言をしたり、機密情報を日本政府に漏らしたりしていたとされる。WHOは葛西氏を休職扱いとし、内部調査を進めていた。
WHOは人種差別やハラスメントを一切、容認しない政策を掲げ日本政府もこれを全面的に支持している。告発内容が事実であれば解任は当然だろう。
だが、葛西氏は声明で「部下に厳しく接したことは事実だが、特定の国籍の人を攻撃したことはない。機密情報を漏洩(ろうえい)したとの非難にも異議がある」と告発内容を否定していた。健康危機管理の専門家である葛西氏は、WHOトップのテドロス事務局長の後任の最有力候補の一人と目されていた。
問題を放置すれば、政府が進める日本人の国際機関トップ就任へ向けた活動にも禍根を残すことになる。
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2023年3月10日付産経新聞【主張】を転載しています