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生物のゲノム(全遺伝情報)を自在に改変するゲノム編集技術「クリスパー・キャス9」が抱えていた課題を新技術で解決し、改変の精密さを3000倍向上させることに成功したと、九州大などの研究チームが4月11日、英専門誌で発表した。数年程度で実用化し、安全な遺伝子治療の実現に役立てたいとしている。

 

クリスパー・キャス9は、塩基という物質が鎖状に連なり遺伝情報を表すゲノムの本体、DNA(デオキシリボ核酸)を狙った場所で切断したり、任意の塩基配列を挿入したりする。標的の場所への案内役の物質と、DNAを切断するはさみ役の酵素からなる。切る能力が強すぎて、標的以外の場所も切断してしまうという課題があった。

 

研究チームは、案内役の物質に、シトシンという塩基を付加すると、DNAとの結合力が下がり、切断する能力が低下することを発見。シトシンの個数の適切な調節で、狙った場所だけ切断する正確さが19倍も向上することを突き止めた。

 

九州大学=2021年11月、福岡県福岡市西区 (©産経新聞)

 

これまでは誤った場所の切断で細胞が死滅することがあったが、今回は大半の細胞に影響がなく安全性が1800倍向上。狙い通りの遺伝情報に改変する精密さも3000倍向上した。

 

これらの課題は、多数のゲノム編集の実験結果から成功したものを選べる場合は問題にならないが、選別できない場合は大きな問題となる。海外で臨床試験が進んでいるクリスパー・キャス9を活用した遺伝子治療では、標的外の切断を原因とする細胞のがん化リスクが指摘されている。

 

しかし、今回の新技術は課題の解決につながる。川又理樹・九州大助教は「社会実装に向け特許を出願済みで、既にベンチャー企業も設立した。1年程度で遺伝子治療の臨床試験を開始し、数年後の実用化に結び付けたい」と話している。

 

 

■クリスパー・キャス9
米国のジェニファー・ダウドナ氏とフランスのエマニュエル・シャルパンティエ氏が、2012年に発明したゲノム編集技術。それまでの方法に比べ、標的の設定が容易で使いやすいことからゲノム編集の利用が本格化し、両氏は生命科学研究を大きく進展させた功績で、20年のノーベル化学賞を受賞した。遺伝子治療など医療分野の応用に期待が広がっているほか、特定の栄養成分を高めたゲノム編集食品の実用化も国内外で進んでいる。

 

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