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一般財団法人「産業遺産国民会議」は5月9日、昭和30年に長崎市の端島炭坑(通称・軍艦島)を取り扱ったNHK番組「緑なき島」で、坑内とされる映像を検証する産業労働研究会の初会合を東京都内で開いた。映像は元島民の証言や坑内規則に反している内容だが、韓国メディアは朝鮮人労働者が戦時中に非人道的な待遇を受けたと主張する論拠に番組を利用する。「故郷」をおとしめられた元島民の名誉回復につなげる狙いがある。
研究会の委員長にはジャーナリストの櫻井よしこ氏が就任。今夏までに調査報告書をまとめる。初会合では炭鉱史の研究者や炭坑の元作業員、弁護士ら約40人が番組の映像を確認した。
福岡県大牟田市立図書館の館長補佐で、炭鉱史に詳しい山田元樹氏は「当時は坑内に撮影機材を持ち込むことは難しい。イメージ映像を差し込んでいる」と指摘し、端島炭坑で作業経験のある田中実夫さん(88)は同炭坑の特徴を説明し、「映像にあるような作業や坑内の環境はあり得ない」と訴えた。
番組の坑内映像は、ふんどし姿の作業員がキャップランプ(安全灯)を装着せず、坑道をはって、つるはしをふるうなど、当時の作業実態とは異なる点が多数、識者や元島民から指摘されている。
一方、緑なき島について韓国のテレビ局などは軍艦島を「朝鮮人強制連行」と関連づけて報じる際、この坑内映像を使用するケースが相次いでいる。NHK幹部の国会答弁によれば、NHKは平成22年に、緑なき島の映像を韓国の公共放送KBSに提供し、その後は複数の韓国メディアに「目的外使用」されている状況だという。
会合に出席した自民党の務台俊介衆院議員は「NHKは『著作権上の権利が消滅しているので、法的に何もいえない』という。ただ、国益を阻害する形で使われていることの道義的な問題はある」と述べ、NHK側に対応を促していく考えを示した。
国民会議の加藤康子専務理事は「映像を放置することは、(韓国などの)政治的主張に悪用されることを放置することだ。高齢な元島民は、元気なうちに解決したいとの強い思いを持つ。われわれには誤解を解く責任がある」と語った。
NHKも元島民の求めに応じ、令和2年11月以降、緑なき島の坑内映像について調査を実施。NHKの退職者や専門家から聞き取った結果、3年12月に「現時点では明確な根拠があるとまでは言えない内容も一部存在するものの、端島炭坑以外のものであるとの結論には至らなかった」とする報告書をまとめた。
報告書には「補助的につるはしを使うことはあったと聞いている」と元島民の主張を打ち消す専門家の意見のほか、坑内映像の電球が防爆装置をつけていない点など、「裸電球は無かったはず。事故防止を厳しく言っていた時代にあたるはず」と緑なき島の内容を疑問視する指摘が盛り込まれた。元島民らはNHK側に改めて検証を求めているが、NHKは応じていない。