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ジャニーズ事務所の故ジャニー喜多川前社長による性加害問題で、同事務所の藤島ジュリー景子社長が謝罪した。
もっとも謝罪は動画と文書による一方的なもので、質疑はなかった。
謝罪の対象は「被害を訴えられている方々」と「関係者の方々、ファンのみなさま」で、性被害の実態については「当事者であるジャニー喜多川に確認できない中で、個別の告発内容について『事実』と認める、認めないと一言で言い切ることは容易ではない」として事実認定を拒んだ。
今後の調査についても「ヒアリングを望まない方々も対象となる可能性が大きい」などとして第三者委員会は設置しないという。当事者が掲げる理由として、適切とはいえない。
これでは幕引きを図るためだけの、形ばかりの謝罪と受け止められても仕方あるまい。
この問題は、事務所の元所属タレントによる告発や、英BBC放送が「J―POPの捕食者 秘められたスキャンダル」と題して3月に放送したドキュメンタリー番組が火をつけた。
16日には立憲民主党のヒアリングに出席した事務所出身のダンサーが、13歳当時にジャニー氏から受けた性被害を訴えた。告発の輪は広がっている。
性被害の訴えは、いずれもタレントらが未成年時に、圧倒的に強い立場の者の行為を拒めなかったとされるものだ。到底許せるものではなく、実態の解明を求められるのは当然だろう。
ジャニー氏による少年に対する性加害については、これを報じた週刊文春をジャニーズ事務所が名誉毀損(きそん)で訴えた民事裁判で、東京高裁が平成15年、その事実を認定していた。
それにもかかわらず、同氏が令和元年に死去した際には、産経新聞を含むほとんどのメディアが、「男性アイドルの名伯楽」などと礼賛報道に終始した。
「故人への配慮」といった言い訳は通るまい。
近年は、映画・演劇界でのセクハラやスポーツ界のパワハラなどで深刻な告発が相次いでいる。
芸能界やスポーツ界といった、ある種の閉鎖社会における旧態依然を許容してきた悪弊は、もはや通用しないと知るべきだ。
もちろんそれは、メディアにとっても同様である。
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2023年5月17日付産経新聞【主張】を転載しています
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