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7th Escort Division of the Japanese Maritime Self-Defense Force at the Ominato Naval Base. (© Japan Maritime Self-Defense Force)

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米誌タイム(5月22―29日号)の表紙に岸田文雄首相が登場し、首相とのインタビュー記事の電子版には当初、「岸田首相はかつてパシフィスト(平和主義)だった日本をミリタリーパワー(軍事大国)に転換しようとしている」との見出しが付けられていた。岸田首相本人が「記事の中身と見出しがあまりに違う」(中国新聞のインタビュー)と異議を唱えたため、日本政府が外務省を通じてタイム誌側にそのことを指摘すると、タイム誌側は電子版の見出しを「岸田首相はかつて平和主義だった日本に、国際社会でより積極的な役割を与えようとしている」と差し替えた。

 

岸田首相自身はインタビューで軍事大国という言葉を使っていないかもしれないが、見出しは記事中の文言を使わなければならないという決まりはない。むしろ岸田首相は日本が進むべき方向性として、他国に脅威は与えないもののミリタリーパワーになることを目指すと言うべきではないのか。

 

岸田首相の写真を使用した5月10日午前の米誌タイム電子版(同誌提供・共同)

 

日本批判の含意ないタイム誌記事

 

タイム誌の記事を読むと、日本の軍事大国化を批判している内容ではない。ロシアとは北方領土問題を抱え、北朝鮮は弾道ミサイル発射を繰り返し、そして中国は台湾に対する圧力を強めていることを紹介し、岸田首相が「世界第3位の経済大国を、それに見合うだけの軍事的プレゼンスを持つグローバルパワーに戻すことに着手した」ことに理解を示した。

 

首相が理想とする核廃絶についても、幼少期からの経験を通じて、「核兵器のない世界」に向けた「強い思いを持っている」と記している。

 

ミリタリーパワーという言葉は軍国主義化を非難するニュアンスを含まない。にもかかわらず岸田首相がこだわったのは、「専守防衛」を掲げ「軍事大国にはならない」とこれまで繰り返してきたこととの整合性を気にしたからであろう。

 

核兵器を保有するロシア、北朝鮮、中国に囲まれている中で、「非核三原則」を後生大事に掲げる国が真の軍事大国になれるはずもない。

 

しかも、「戦力不保持」を謳った憲法9条第2項は改正されないままであり、自衛隊は国の防衛を担う武力組織であっても諸外国のような軍隊ではない。あくまで行政機関の一つであり、任務や権限は著しく制約を受けたままである。

 

tactical nuclear weapons
新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星砲17」型の試射を指導する金正恩朝鮮労働党総書記=2022年11月18日、平壌国際空港(朝鮮中央通信=ロイター)

 

軍事忌避をやめたはずでは

 

それでも昨年12月の国家安全保障戦略など戦略3文書の見直しで、「国際社会における新たな均衡を、特にインド太平洋地域において実現」し、「一方的な現状変更を容易に行い得る状況の出現を防ぐ」ことを目標として掲げ、そのために防衛費を2027年度に国内総生産(GDP)比2%に増額することを決めた。

 

「パワー」を「大国」と訳すかどうかは別として、国際関係において「軍事の分野で重きをなす国」を目指す方向性を打ち出したのだから、「ミリタリーパワー」の見出しは間違っていない。「他国の侵略を許さない真の防衛大国」という意味だと説明したら、岸田首相は納得するだろうか。

 

筆者:有元隆志(国基研企画委員・月刊正論発行人)

 

 

国家基本問題研究所(JINF)「今週の直言」第1038回(2023年5月15日)を転載しています

 

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