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我が国最大級の国立研究開発法人である産業技術総合研究所(産総研)の中国人研究者が、警視庁公安部によって不正競争防止法違反(営業秘密の開示)容疑で逮捕された。
逮捕されたのは権恒道容疑者で、2002年4月から産総研に勤務し、フッ化化合物に関する研究に従事していた。中国人民解放軍と関連がある「国防7校」の一つ、南京理工大学の出身で、一部の期間、同じく国防7校の一つである北京理工大学の教職を兼ねていた。また、中国のフッ素化学製品製造会社、陝西神光化学工業有限公司の会長も務めていた。
我が国の先端技術の研究データは国防7校から、それを管理する国防科技工業局を通じて企業に流れる。本人が中国の会社で儲けていたことに、産総研は20年間気づかなかった。
研究機関に入り込む中国人
権容疑者が教職に就いていた北京理工大学は、核兵器やミサイルなどの大量殺戮兵器やあらゆる軍事研究を行う恐れのある研究機関として、経済産業省のいわゆる「外国ユーザーリスト」に載っている。フッ化化合物のうち、フロンガスは中国企業が世界の大きなシェアを握るエアコンなどに利用されるが、先端半導体製造にも使われる。特に危険なのは高純度の六フッ化ウランで、遠心分離機によるウラン濃縮に使われ、核兵器製造に必須だ。
筆者が北海道大学に在職中は、国際規制物質の管理委員長として、全教員に対して輸出規制の対象品などについて講義を行い、大学院の研究室における学生や研究者の配属や、海外出張先で留意すべきことを教え、全教員から受講内容を理解したとのサインを集めた。東工大でも、研究不正防止のオンライン受講義務が全教員にある。しかし、今回の事例が示すように、中国人研究者は大学や国立研究所にも大勢所属しており、不正を効果的に炙り出し防止するのは困難だ。
先端技術の研究室が中国人に占められている実例が東北大学にある。電磁波の波動現象を利用する波動工学の研究室は、アンテナなどの開発で世界的な成果を上げ、その実用化を主導してきたが、今年初めに作成された資料によると、研究室のメンバー38人のうち16人が中国人で、42%を占める。とりわけ博士後期課程の研究員は、12人中10人が北京理工大学を含む中国政府認定の一流大学「国家重点大学」の出身者だ。このように、我が国の国立大学が中国の発展のために国費を投入しているような例も多い。
スパイ天国・日本
日本はスパイ天国という不名誉な呼ばれ方をしている。1985年、国家機密に関わるスパイ行為の防止法が自民党から議員立法として衆議院に提出されたが、野党の猛反対で成立しなかった。
我が国の軍事研究に反対する日本学術会議も、我が国技術の中国への流出による軍事転用に警告を発したことがない。学術会議の主要メンバーが、国防7校も加わる研究交流会に大勢参加している。どの国のための学術会議かと言いたい。中国に我が国の先端技術が流出すれば、国民の命が守れなくなるのだ。やはりスパイ防止法の制定が必要である。
筆者:奈良林直(国基研理事・東京工業大学特任教授)
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国家基本問題研究所(JINF)「今週の直言」第1049回(2023年6月19日)を転載しています