20230629 UN Abduction Issue Online Symposium 004

Takuya Yokota and Koichiro Iizuka respond to questions in a press conference after the UN symposium. Evening of June 29, 2023, in Tokyo. (© Sankei by Reina Kikkawa)

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北朝鮮による拉致問題の解決に向けた国際連携を強めようと、日本、米国、オーストラリア、韓国、欧州連合(EU)が共催する国連シンポジウムが6月29日夜、オンライン形式で開催された。北朝鮮側が前日の28日に日本人拉致問題に関し「解決済み」などとする従来の見解を表明する中、国際社会の協調態勢を改めて示した。

 

国連シンポは例年、米ニューヨークの国連本部で実施。新型コロナウイルス禍により、今回で3年連続のオンライン開催となった。横田めぐみさん(58)=拉致当時(13)=の弟で家族会代表の拓也さん(54)は、「拉致された子を待つ親世代が存命、健全なうちに再会を果たせなければ解決とはいえない」と述べ、被害者の早期帰国を訴えた。

 

日本の家族らは5月、4年ぶりに米ワシントンを訪問。米政府高官が「できることは全て行って支援する」と述べるなど、連携は深まっている。

 

北朝鮮は6月28日、外務省日本研究所研究員の文章として、日本人拉致問題は「既に完全に解決済み」と表明し、今回のシンポについても「集団的な圧迫の雰囲気を作り出そうとしている」と批判していた。

 

北朝鮮拉致問題の国連シンポジウムがオンラインで開かれ、基調発言する松野博一官房長官(左)と拉致被害者家族の横田拓也さん、飯塚耕一郎さん=6月29日午後、東京都千代田区(斉藤佳憲撮影)

 

「ただ取り戻したいだけ」

 

日本の被害者家族として参加した家族会代表の横田拓也さんは、終了後に報道陣の取材に応じ、「私たちの声が金正恩(朝鮮労働党総書記)に届いていると信じている」と強調し、早期の局面打開へ期待感を示した。

 

Megumi
横田めぐみさん

 

拓也さんはシンポジウムで、「私たち家族や兄弟の人権は侵害されたままの状態が続いている。国際社会がこのようなことを決して許してはいけない。自由な社会で生きている私たちが責任をもって解決させていく必要がある」と主張。金氏に対し「私たちはただ、家族や兄弟を取り戻したいだけだ。帰国が実現した後、被害者が北朝鮮で見聞きした秘密を聞き出して暴露しようなどとは考えていない。どうか私たちを信じ、(日朝)首脳会談に応じてほしい」と呼びかけた。

 

田口八重子さん

 

田口八重子さん(67)=同(22)=の長男、飯塚耕一郎さん(46)は「拉致事件の発生からとてつもなく長い時間が経過しており、真の解決のために残された時間は長くない。北朝鮮にいる被害者と日本で帰りを待つ家族が生きて、健康なうちに帰国させなければ真の解決ではない」と語り、「これ以上、拉致被害者と家族を、死が分かつことがあれば、われわれは北朝鮮を憎しみ、怒りでしか見ることができなくなるだろう」と一刻も早い被害者の帰国実現を重ねて求めた。

 

北朝鮮拉致問題の国連シンポジウムがオンラインで開かれ、基調発言する松野博一官房長官(左から3人目)。右隣は拉致被害者家族の横田拓也さんと飯塚耕一郎さん=6月29日午後、東京都千代田区(斉藤佳憲撮影)

 

シンポジウム終了後、拓也さんは、北朝鮮側が5月、「日本が関係改善を活路を模索しようとするなら、日朝が会えない理由はない」などとする談話を公表したことに関し、「今後の日朝交渉が、明るい兆しを帯びてくるという感触を受けた」と説明した。

 

一方、シンポジウム前日の28日、北朝鮮側が日本人拉致問題を「完全に解決済み」などと表明したことについては、「受け入れられない」と断じた。

 

耕一郎さんは、田口さんが昭和53年6月末ごろに拉致されてから45年となることに言及。田口さんの兄で、家族会前代表の飯塚繁雄さんが令和3年に83歳で亡くなるなど、家族の死が続いていることに触れ、「北朝鮮にいる八重子さんも67歳となり、健康に生きているか、心配や不安が年々強くなっている」と案じた。

 

 

日朝首脳の関係構築模索

 

松野博一官房長官兼拉致問題担当相は29日夜の国連シンポジウムで、日本が主体的に拉致解決へ動く決意を改めて強調した。北朝鮮側はシンポの開催にも反発しており、交渉に応じるかどうかは見通せないが、日本政府は引き続き対話を模索している。

 

松野氏はシンポで「トップ同士の関係を構築していくことが極めて重要だ」とし、日朝首脳会談の早期実現に向け、岸田文雄首相直轄のハイレベル協議を行う考えを重ねて表明した。

 

北朝鮮側は28日に外務省傘下機関の研究員の文章としてシンポ開催への非難を表明したが、日本政府高官は「いつものこと。政府高官の発信ではない」と冷静に受け止める。シンポは毎年実施しているが、昨年は開催後、一昨年は開催前に、今回と同じ機関の研究員名義で同様の主張を繰り返していた。

 

「全拉致被害者の即時一括帰国を求める国民大集会」であいさつする岸田文雄首相。左端は横田早紀江さん=5月27日午後、東京都千代田区(鴨志田拓海撮影)

 

一方、首相が5月27日に首脳会談実現に向けたハイレベル協議に初めて言及した2日後に、北朝鮮は「日本が新たな決断を下し、関係改善の活路を模索しようとするなら会えない理由はない」などとする談話を公表した。談話は外務次官によるもので、日本政府関係者は「どのレベルの人間がどういう発信をしているか分析する必要がある」と話す。

 

7月にはインドネシアで北朝鮮も加わる東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラム(ARF)の閣僚会議が開かれる。北朝鮮の参加は未定だが、日本はあらゆる場を通じて対話の糸口を探る。

 

筆者:橘川玲奈、小沢慶太(産経新聞)

 

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