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中国で7月1日、スパイ行為の取り締まり強化に向けて改正された反スパイ法が施行された。
中国に滞在する外国人にも大きな影響を与える危険な法律だ。国際社会は監視を強め、不当な措置には抗議の声を上げなければならない。
反スパイ法は2014年に施行された。今回の改正でスパイ行為の定義が拡大された。従来の「国家機密」だけでなく、「国家の安全と利益に関わる文書やデータ、資料、物品」の提供や窃取も取り締まりの対象とされた。
問題なのは、「国家の安全と利益」の定義が不明確で、具体的にどのような行為が罪に問われるのか分からない点だ。
日米欧など自由主義諸国との対立を深める専制主義の中国・習近平政権が、「国家の安全と利益」を名目に恣意(しい)的な運用を加速させる恐れは排除できない。
中国国内で働く日本など外国企業の社員の間に不安が広がっているのは当然だ。中国の地図や写真などの資料をインターネットで検索したり、スマートフォンに保存したりすることさえも危険だと警戒する向きもある。
改正反スパイ法では、スパイ行為の通報を「全ての国民」に義務付けており、同僚の中国人社員に疑いの目を向けなければならなくなるケースもあるだろう。
李強首相は先の欧州歴訪で外国企業に対中投資の拡大を呼びかけた。開いた口が塞がらない。対中投資に冷や水を浴びせているのは中国当局である。
1日には、国家の主権や発展の利益を害する行為に対抗措置をとる権限を明記した「対外関係法」も施行された。対中制裁を科す国々への脅しにほかならない。
香港国家安全維持法(国安法)の施行から3年たった香港でも外国人を含む香港市民への締め付けが強まっている。香港当局は6月30日、日本人ジャーナリストの入境を拒否した。日本滞在中に香港独立を含む内容を交流サイト(SNS)に転載した香港の女子留学生が、香港に戻った3月に国安法違反容疑で逮捕された。香港域外への初の適用とみられる。
中国ではスパイ容疑での日本人摘発が相次いでいる。3月には北京市内でアステラス製薬の日本人幹部が拘束された。改正反スパイ法などで、日本人がこれ以上、不当な扱いを受けてはならない。
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2023年7月1日付産経新聞【主張】を転載しています