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「アツイ、日本はインドより暑い」。これがインドのグジャラート州アーメダバードから帰国した実感だ。
今年の日本列島は予測されていた通り、例年より厳しい暑さだ。昨年の夏の日本の平均気温は明治31(1898)年の統計開始以来2番目に高く、6~8月の熱中症の救急搬送者が6万3千人に上ったが、今夏の猛暑も警戒が続く。
7月12日には東京・八王子が39・1度と全国一に。気象庁は20日、この先の1カ月予報で今週後半から全国の広い範囲で平年に比べて「かなり高温」になる見込みと発表した。気候変動は異次元の段階に入ったと体感する。
今月アーメダバードで行われた、世界の主要都市の首長らが参加する国際会議「U20メイヤーズ・サミット」は、20カ国・地域(G20)首脳会議の都市版で、「U」はアーバンの「U」だ。ニューヨーク、ロンドン、パリなどの都市が参加し、ウクライナ戦争の平和的解決に加え、東京都が訴えた脱炭素化、災害への強靱(きょうじん)化の推進などを盛り込んだコミュニケ(共同声明)に105都市が署名した。
「水の安全確保」をテーマにしたセッションでは、東京都の経験やノウハウに注目が集まった。河川の水質改善の取り組みとして、処理能力の高い浄化槽や、層の深さが倍で用地を効率的に活用できる下水処理、雨天の時に流れてくる水に渦を発生させ、その流れでごみを河川に流さず、水再生センターに導く仕組みなどを紹介。豪雨対策としては、洪水を一時貯留し、河川の氾濫を防ぐ巨大な地下空間にトンネル型の水を貯(た)める地下調節池を紹介した。現在、140万立方メートルの水を貯められる日本最大の地下調節池の工事を都内で進めており、1時間に100ミリ規模の集中豪雨にも対応できるようになる。
関東大震災から100年の節目に合わせ、東京都は昨年12月、総事業費15兆円規模の「TOKYO強靱化プロジェクト」を策定し、災害対策を徹底的に強化している。今月14日にはプロジェクトの一環として、気候変動により激甚化・頻発化する風水害に負けない河川整備のあり方に向けた中間取りまとめを行った。
中小河川の洪水対策や低地河川の高潮対策をさらに強化するとともに、調節池を海まで延伸し、線状降水帯のような長雨にも継続的に効果が発揮できる対策を進める。都市部の水を地下に川をもう一本通して流す壮大なプロジェクトだ。防潮堤のかさ上げ、スーパー堤防、水門の整備など、それぞれの場所に応じた対策も検討していく。
今年、9年ぶりに公表された気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書によると、世界の平均気温は産業革命前と比べて2011年から20年の10年間で、1・1度上昇したとされ、現状のままでは21世紀の間に世界の平均気温の上昇が1・5度を超えると警告されている。気候変動や自然災害は都市共通の課題だ。最前線に立つ都市同士が具体的に行動を起こしていくことが未来を決める。
こうした社会課題の解決の糸口として活躍が期待されることの一つに、若いスタートアップの力がある。
今回のインド訪問中、国立大学であるインド工科大学のガンディナガール校内にあるテクノロジービジネスのインキュベータ施設を視察した。
学生や卒業生などの起業を支援し、成長のために外部の投資家とのマッチングを行うほか、IT人材の育成にも熱心に取り組んでいる。学生たちの希望にあふれたまなざしが印象的だった。
来年5月、インド工科大学を含め、国内外のスタートアップや都市のリーダー、優れた技術を有する企業が一堂に会する大規模イベント「Sustainable High City Tech Tokyo」を開催する。世界共通の都市課題の解決を目指す。
孫子の兵法に「兵に常勢無く、水に常形無し」という言葉がある。戦場における軍の形や攻め方は状況に応じて常に変化させるものであることを示している。「水」のように柔軟に変わりゆく時代を乗り越えなければならない。
筆者:小池百合子(東京都知事)
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2023年7月23日付産経新聞【女子の兵法 小池百合子】を転載しています