~~
中国の秦剛外相が就任後7カ月で解任された。世界2位の経済大国の顔ともいうべき外相の動静が1カ月途絶えた末の更迭劇だ。しかも解任が発表された際、その理由を中国政府は一切説明しなかった。異様というほかない。
昨年末に外相に就任した秦氏は今年3月の初会見で、憲法の条文を読み上げ「台湾は中国の領土の一部だ」と主張し、「中国の意思と能力を過小評価してはならない」と述べた。恫喝(どうかつ)を厭(いと)わない物言いで、戦狼(せんろう)外交官として知られていた。
4月には、中国の仲介で外交関係を正常化させたイランとサウジアラビア両国の外相を北京に招いて会談を行った。しかし、6月25日にロシアなど3カ国の高官と北京で会談したのを最後に、公の場から姿を消した。
以後、新型コロナウイルスに感染したとの報道や健康不安説、さらには女性問題で調査を受けているといった報道など、さまざまな臆測が流れた。解任の理由は不明だが、中国外務省のホームページではすでに秦氏の外相就任後の活動記録は公開されていない。前任の王毅・中国共産党政治局員が約10年、外相を務めたことを考えると秦氏の任期の短さは際立つ。
解任劇で改めて浮かび上がるのは、中国共産党指導体制の意思決定過程の不透明さだ。外相が理由不明のまま更迭される事態は国際的信用にかかわる問題である。習近平政権が掲げる「大国外交」への打撃は避けられまい。
秦氏が駐米大使に起用された後1年余りで外相に抜擢(ばってき)され、その3カ月後に副首相級の国務委員に任命されるスピード出世を果たした背景には、外務省儀典局長時代に信頼を得た習氏のツルの一声があったとされる。秦氏の解任が今後の習体制にどのような影響を与えるのか。権力闘争の行方も注視する必要がある。
中国の外交政策を決めるのは習氏がトップを務める党中央外事工作委員会であり、外相更迭で中国の外交政策が大きく変化することはない。ただ、後任の外相には王毅氏が返り咲く。これまでと違い王氏は、中国共産党指導部メンバーの政治局員だ。
王氏は対日強硬派として知られる。東京電力福島第1原発処理水の海洋放出計画などで中国と懸案を抱える日本政府は、これまで以上に警戒しなければならない。
◇
2023年7月27日付産経新聞【主張】を転載しています