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患者の遺伝情報(ゲノム)を調べて、診断や治療に活用する「ゲノム医療」の推進法が、先の通常国会で成立した。
「世界最高水準のゲノム医療の実現」を基本理念に据え、政府に対し基本計画の策定や財政上の措置を求めている。
がんの領域で実用化が進んでいるが、すべての遺伝子変異に対応する治療薬があるわけではないため、遺伝子の変異が見つかっても、治療にたどり着く患者は、1割程度に過ぎないという。
推進法の成立を契機に、国を挙げてゲノム医療を充実させ、治療の選択肢を確実に増やすことで、より多くの患者が、がんを克服できるようにしたい。
がんが「不治の病」といわれたのは、過去の話になりつつある。それでも、日本人の死因で最も多いのはがんであり、約4分の1を占める。この事実は重い。
検査体制の強化はもちろん、遺伝情報を大量に蓄積し、解析を進め、着実に原因解明や新薬開発につなげることが欠かせない。
従来の抗がん剤は、大腸や胃などといった臓器別のものが主流だ。正常な細胞も攻撃してしまうため、吐き気やしびれなどの副作用が出ることが多い。
これに対し、遺伝子変異に対応した薬は、健康な細胞を攻撃することが少ない。体への負担が軽減されることへの期待も大きい。
将来的には、遺伝情報から将来の健康状態を予測し、予防につなげることも考えられる。
普及への課題は少なくない。がん遺伝子検査は令和元年から保険適用されているが、対象は抗がん剤投与など、一般的に推奨される治療法がない人や、そうした治療が終わった人らに限られている。医療保険財政の逼迫が背景にあるとはいえ、幅広い人が検査を受けられる仕組みが望ましい。
推進法には、遺伝情報の保護と差別防止も盛り込まれた。遺伝情報は「究極の個人情報」といわれる。がんになりやすいなどといった情報が漏れ、生命保険への加入、就職などの場面で、不利益を被ったり、不当な扱いを受けたりすることはあってはならない。
政府には、遺伝情報の取り扱いについて、早急に検討を進めてもらいたい。何が差別に当たるかも詰める必要がある。遺伝情報の適切な管理なくして、ゲノム医療の発展はないと心得るべきだ。
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2023年7月31日付産経新聞【主張】を転載しています