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きめ細かい砂質や起伏のある地形が月面と似ているとされる鳥取砂丘(鳥取市)に、月面開発に取り組む企業や研究者の実験場「鳥取砂丘月面実証フィールド」が誕生した。宇宙産業の拠点化を目指す鳥取県と、砂漠などの乾燥地研究で知られる鳥取大学が連携して、国立公園の隣接地に開設。さっそくブリヂストンが月面探査車向けタイヤの走行テストを行うなど、企業や研究機関の関心を集めている。
平坦な砂地と長い傾斜
「ルナテラス」
月面実証フィールドは、そう命名された。ラテン語で「月」を意味する「ルナ」と、「照らす」「庭園」を表現した「テラス」を組み合わせた。県の愛称募集に寄せられた896通を基に名付けられた。
「タイヤのテストには広くて平坦(へいたん)な砂地、長い傾斜が必要で、鳥取砂丘は非常に貴重な場所だ」
ルナテラスがオープンした7月7日、月面探査車向けタイヤの開発に取り組んでいるブリヂストンがデモンストレーション。同社弾性接地体開発課の今誓志(こんせいじ)さんはそう説明した。
走行したのは有人月面探査車用のオール金属製タイヤ。気温が氷点下170度~摂氏120度と寒暖差が大きく、宇宙放射線が降り注ぐ環境下ではゴム製タイヤは長期使用に耐えられないという。
同社はこれまでの走行実験では、海岸線やオフロードバイク場などを使用してきたが、地形の凹凸が激しく試験に支障を来すこともあった。ルナテラスは広く平坦な砂面に加え、最大斜度20度の壁面も造成され、月面の斜面を想定した走行テストも可能だ。
今さんは「(タイヤの走行距離は)100キロ、1千キロ、もっと先を見据えているが、(テストのための)安定した砂地の確保に苦労してきた」と振り返り、ルナテラスのオープンを歓迎した。
最初に着目は民間企業
ルナテラスの面積は0・5ヘクタール。国立公園鳥取砂丘の西側に隣接する鳥取大学乾燥地研究センターの敷地内に造成された。平面、斜面、自由設計(掘削・造成が可能)の3ゾーンに分けられており、ユーザーの多様なニーズに対応できるとしている。昨年、造成に着手し、隣に造られた建設産業新技術試験のための「建設技術実証フィールド」(0・5ヘクタール)と同時に完成した。
月面との類似性に気づき、鳥取砂丘を最初に活用したのは民間企業だった。平成28年から30年まで、宇宙ベンチャー「ispace(アイスペース)」(東京)を母体に運営された月面探査チーム「HAKUTO(ハクト)」が、鳥取砂丘で無人探査車の試験を実施。走行のほか映像や写真を送信するためのカメラの性能、通信状況テストなどを行った。同社はこれに次ぐプロジェクト「HAKUTO-R」で今年4月、達成はかなわなかったものの日本初となる月面着陸に挑み、注目を集めた。
夢のフィールド
月面と鳥取砂丘の類似度を、科学的に比較したデータがある。ルナテラスオープンの半月ほど前、鳥取県の委託で研究を進めてきた宇宙関連の技術集団「amulapo(アミュラポ)」(東京)が発表した。
研究では、鳥取砂丘の3次元マップや特性データ、米航空宇宙局(NASA)の月面データを取得、整理し類似性について考察した。
「月面上の限定されたエリアが対象とはなるものの、類似した地形的特徴や砂の強度を持っていることが確認できた」
同社はそう結論付け、具体的には、「同じような起伏や勾配」「基本的に一般的な砂の性質を双方有しており乾燥状態であれば大きな乖離(かいり)はない」「粒度分布は細砂、中砂成分が多いことや化学成分の比較としてもおおむね似たような性質を有している」などと類似点を指摘している。
ルナテラスのオープニングデモンストレーションでは、ブリヂストンのほか東北大学の学生が開発中のローバー(月面探査車)の走行テストを行った。県によると、このほか企業や大学など約10団体から施設利用について打診があったという。
世界の宇宙開発をめぐっては、米国が「アルテミス計画」を打ち出し、2025年以降に人類を月面に再着陸させることを目標に掲げる。将来的には、月面での持続的駐留、有人の火星探査につなげることも視野に入っている。
宇宙開発の活発化を背景に、宇宙産業は年率8%の成長産業と目されている。鳥取県は、ルナテラス開設を手始めに日本を代表する月面関連拠点となることを目指しており、その先には宇宙産業創出を見据える。
「スタバはないがスナバはある」のダジャレで一躍鳥取砂丘への注目度を上げた同県の平井伸治知事は、ルナテラス開設について「スナバが素晴らしいフィールドになった。夢のフィールドで未来を切り開いていただきたい」と期待を寄せた。
筆者:松田則章(産経新聞)