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ロシアのプーチン政権が、ウクライナ侵略を「正当化」した新しい教科書を9月の新学期から採用する。
日本の高校1~2年生に相当する全国の生徒が対象で、政権の求心力を高めるための「愛国教育」強化の一環だ。
しかし、帝国主義的妄執に憑(つ)かれた暴君が昨年2月に始めた侵略戦争を「正当化」できる根拠など一片たりともない。
戦局が苦境に陥ると、プーチン大統領は侵略をロシアの破壊を狙う欧米に対する「祖国防衛」戦争だとすり替えて愛国心を煽(あお)ってきた。新教科書の採用は「愛国教育」に名を借りて偽りの歴史を子供らに刷り込む卑劣な洗脳教育に他ならない。
即刻撤回すべきである。
民間軍事会社「ワグネル」トップのプリゴジン氏は今年6月の反乱で、プーチン氏が侵攻の口実とした「大義」を真っ向から否定し、「ウクライナの非軍事化と非ナチス化に戦争は必要なかった」などと暴露した。
ところが、新しい歴史教科書は「対ウクライナ軍事作戦」の「正しい経緯」の中で、侵攻の理由を「ウクライナが北大西洋条約機構(NATO)を目指した」と書き、「欧米は露経済を崩壊させるため違法な制裁を発動した」と記述している。厚顔無恥も甚だしい。
プーチン氏はナチス・ドイツを破った独裁者スターリンによる大祖国戦争(第二次世界大戦の独ソ戦)の勝利を国家団結と愛国心高揚に利用している。しかし、大戦の発端が独ソ不可侵条約(1939年)に基づくポーランド分割にあった事実は隠蔽(いんぺい)し続けている。
終戦直前の1945年8月9日、スターリンが日ソ中立条約を一方的に破って日本に侵攻、北方領土を不法占領した事実もプーチン政権下の歴史教科書は一行も言及していない。
侵略「正当化」には将来の反戦・反政権の芽を摘み取ろうとする策略が読み取れる。ある男性教師は「国は子供を型にはめ込もうとしている。いかなるイデオロギー教育にも反対だ」と批判した。当然だ。
侵略後、有為な青年が大挙して祖国を捨てた。残された子供たちが噓まみれの愛国教育に染まっていけば、ロシアの国際的孤立化は永続化し、結局は自国の首を絞めかねない「破滅への道」だと知るべきだ。
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2023年8月12日付産経新聞【主張】を転載しています