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東京電力福島第1原発の処理水をめぐり、岸田文雄政権は8月22日に関係閣僚会議を開き、24日にも海洋放出を始めることを決めた。
岸田首相は国内外に向けて安全性を丁寧に説明し、万全の風評被害対策を講じなければならない。同時に科学的な根拠がない主張や虚偽の情報には、風評被害を防ぐ観点からも毅然(きぜん)と対処してほしい。
処理水の海洋放出は、今後数十年にわたって続く福島第1原発の廃炉工程の一環である。30年程度かかると見込まれる海洋放出を含め、廃炉に向けた作業を適切に積み重ねていく取り組みが求められる。
そうした手順を欠けば、岸田政権が掲げる福島の復興や原発の活用もおぼつかない。政府は海洋放出を東電に丸投げすることなく、政府の責任で完遂してもらいたい。
放出する処理水は、原発事故による汚染水中の放射性物質を除去したものだ。原理上取り除けないトリチウムは残るが、その放射線は弱く、自然界にも存在している。それを排水基準の40分の1未満に海水で薄め、海底トンネルで約1キロ沖合に流すので安全上の問題はない。
処理水の貯蔵量は130万トンを超え、来年前半にも敷地内に1千基以上あるタンクが満杯になる見込みだった。海洋放出はタンクを段階的に減らし、本格的な廃炉作業に備えて用地を確保する狙いもある。
トリチウムを含む排水の海洋放出は世界で広く行われており、今回の放出も通常の措置といえる。7月には国際原子力機関(IAEA)も放出などについて、「妥当」とする報告書をまとめた。今後もIAEAは放出を監視することにしており、国際社会の不安払拭につなげていきたい。
岸田首相は放出決定に先立つ21日に全国漁業協同組合連合会の坂本雅信会長らと会い、改めて理解を求めた。首相は廃炉までの数十年にわたり「国が全責任をもって必要な対策を講じる」と表明した。政府は誠実に約束を履行してもらいたい。
それでも漁業者は風評被害を懸念している。政府は海産物などに風評被害が生じた場合に備え、合計800億円の基金を創設した。事業者が使いやすい運営を心掛け、必要に応じて基金の追加拠出も検討すべきだ。小売業者への説明も不可欠だ。
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2023年8月23日付産経新聞【主張】を転載しています