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自由や平等はだれもが享受すべき普遍的な権利である。人権を抑圧し、否定することは許されない。この理念を体現する人物が、今年のノーベル平和賞に選ばれた。
イランの女性人権活動家で、収監中のナルゲス・モハンマディさんである。収監中に平和賞が決まったのは中国の人権活動家、劉暁波氏(2017年死去)らに続くものだ。モハンマディさんの不屈の精神を称えたい。
イランは自国への国際社会の厳しい目を直視し、直ちに人権抑圧をやめるべきだ。モハンマディさんを釈放し、12月にオスロで行われる授賞式に出席させなくてはならない。受賞者不在の式典となれば、イランの圧政を一段と世界に印象付けることになると認識すべきである。
選考委員会は「イランでの女性の抑圧との闘いと、全ての人々のための人権や自由を促進する闘いを評価した」と授賞理由を説明した。受賞の意義はイラン国内の女性にとどまらぬ広がりを持つ。強権体制下で人権抑圧と闘う全ての人を勇気づけ、後押しすることになろう。
モハンマディさんは、政治犯刑務所の女性受刑者へのインタビューをまとめた著作などで女性に対する抑圧や人権侵害を告発してきた。「反国家プロパガンダ(政治宣伝)を行った」などとして13回の逮捕と計31年の禁錮刑などを科された。
厳格なイスラム体制下にあるイランでは昨年9月、髪を覆うスカーフ「ヘジャブ」のかぶり方が不適切だとして風紀警察に逮捕された女性が不審死したことをきっかけに抗議デモが各地に広がった。モハンマディさんも獄中から家族のSNS(交流サイト)などを通じてデモへの連帯を示してきた。
言論や集会の自由が厳しく制限されるイランで大規模かつ長期的なデモとなったのは、長年の抑圧や経済低迷で鬱積した当局への怒りの表れだ。当局側の弾圧で500人以上が殺害された。見過ごせぬ惨状である。
イランはウクライナ侵略を続けるロシアへの軍事協力も行っている。国内で人権を抑圧し、国外では侵略国に加担する側に立つ。それが国の将来を危うくしていることをイラン政府は重く受け止めるべきである。
日本など民主主義国は圧政と戦う人々への支援と連帯をさらに強めなくてはならない。
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2023年10月9日付産経新聞【主張】を転載しています