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東京電力福島第1原子力発電所からの処理水海洋放出の安全性への国際的な信頼感の醸成につなぎたい。
国際原子力機関(IAEA)による第1原発周辺海域での科学調査が10月16日から約1週間実施される。調査項目は海水や海底土、海の生物の放射能レベルなどだ。
処理水の放出は8月末に始まり、現在は2回目が実施中だ。初回と同じく7800トンが海底トンネルを通じ、1キロ沖に17日間をかけて流される。
第1原発内の多核種除去設備(ALPS)で大半の放射性元素が除去され、極めて微弱な放射線を出すトリチウムだけが残るのが処理水だ。その放出は国際的な安全基準に即しており環境への影響はないとされる。
だが中国政府は「核汚染水」と決めつけ、根拠を欠く中傷を続けている。初回の放出に合わせたホタテなど日本産水産物の不当な全面禁輸は今も続き、中国語での日本へのいやがらせ電話も多発した。
放出後初となるIAEAの調査には「分析機関比較」という手法が導入されている点に注目したい。日本との共同作業で採取した魚などの試料をIAEAと日本の分析機関が個別に分析し、その結果を照合するので客観性が担保される仕組みだ。
今回の調査にはIAEA海洋環境研究所のメンバーだけでなく、IAEAから指名されたカナダ、中国、韓国の分析機関の専門家も第1原発沖での試料採取段階から参加する。
1回目の放出時から東電や水産庁などが海水やヒラメなどのトリチウム濃度を測定しているが、検出限界値未満の結果が続いており、中国の反日的で非科学的な批判からはほど遠い。
日本政府のこれまでの対外的な説明で、世界の多くの国々が処理水海洋放出に問題がないことを認めてくれている。IAEAの分析機関比較によって、日本の主張の正しさが裏打ちされるのは間違いない。中国にとってこれまでの暴論の数々を撤回する好機ではないか。
24日からは処理水放出に関するIAEAの別の調査団が来日し、関係省庁などと計画の全体評価につながる意見交換が行われる。政府は国際社会への積極的な情報発信に全力を挙げねばならない。海洋放出は廃炉の一環として今後30年間ほど続く長丁場の事業なのだ。
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2023年10月15日付産経新聞【主張】を転載しています